第2話 PVは第一話の次回予告ですか? 空の書PV『空に堕ちる』

「PVねぇ……」


 スキル【次回予告】に次回予告が無かったが、その代わりかPVがあった。


 俺の物語はまだ始まっていない……いや、始まったばかりなのかもしれない。きっとそうだ。

 次回予告は話の終わりにあるモノで最初に観ることはまずない。だから、異世界生活が始まったばかりの今ではまだ次回予告を閲覧できないのだろう。


 一気にチート感が失せた。


 もっとマシなスキルが欲しかったよ。


 無双できそうなヤツとか。


 それはそうと着替えが欲しい。

 今は人っ子一人いない草原にいるが、どうにか人を見つけないと話にならない。

 ただ、人の会うのに肉球パジャマでは……こんなことなら英字新聞柄パジャマにしとくんだった。

 ここんとこ寒かったからなぁ……このパジャマはもこもこでぬくいんだよ。この冬オススメの一品である。


 今は春一歩手前の三月下旬だからジャージでもいいじゃないかと思うかもしれないが、ダメだ!


 そんな休むか動くかハッキリしないような服ではダメなのだ、寝る時はパジャマ! 保温性や通気性に吸湿性など快適な睡眠のために考え抜かれた就寝専用の服『パジャマ』でなければダメなのだ。


 和のパジャマとも言える浴衣や甚平、襦袢なども良い。小中高と修学旅行でジャージ指定なのに備え付けの浴衣で寝て怒られたのはいい思い出だ。

 あと、寝室で女の子がジャージ姿でいるよりも、パジャマや浴衣、襦袢姿で居る方がグッとくるね。ワイシャツ一枚ってのも捨てがたいけど。


 しかし、そんな愛してやまないパジャマが裏目に出る日が来ようとは思ってもみなかった。うん、パジャマ愛で逸らしていた目を現実に戻すとしよう。


 観ますか、PV。


 異世界転移したのに何の説明もなかった。

 今頼れる情報源はPVこれしかない。

 とりあえず上から順でいいかな。


 表示しっ放しだった次回予告の画面——表示板、プロフィール板? 映像が映りそうだし今は画面でいいか——の『空の書』をタッチする。



 画面が黒く染まり、白い文字が浮かんでは消えてゆく。

 特にBGMは無いが文字が浮かぶ際に電子音の様な音が鳴った。


『異世界召喚アンケート集計……完了』

 そういえばそんなアンケートやった気がする。


『候補者抽出……完了』

 選ばれてしまったか。


『候補者への召喚術式内蔵処理……問題無し』

 恐っ、魔法埋め込まれたの!?


『適合者判定……完全適合者一名』

 きっと俺のことだ。


『召喚シークエンス……移行中』

 召喚が始まるのか、少しワクワクしてきた。


『問題発生……適合者近隣に候補者二名検出』

 ん? ちょっと雲行きが怪しくなってきたぞ。


『適合者召喚への影響無し……問題棄却』

 適合者が呼べれば構わないってか。


『適合者体内余剰燃料変換……準備完了』

 まさか俺の中にも魔力がある?


『術式展開……召喚シークエンス実行』

 おお、始まっ――


「――うわぁ!?」


 驚いて思わず声をあげてしまった。


 だって仕方ないだろ、いきなり小太りで二十代後半くらいの男の寝顔なんて見せられたら誰だって声をあげる。三十代後半でない事が救いだな。


 『実行』の文字が消えたと思ったらその男が映ったのだ。

 寝癖で直毛を爆発させた小太りの男の寝姿なんぞ見ていたくない。見ていたくないが二重顎や腹回り、二の腕に太ももと脂肪を蓄えた部位が光り出したのが気になって目が離せない。


 よく見なくても分かる、映っているのは俺じゃないと。

 そうなると俺は適合者ではなく、候補者だった事になる……のか? だったら何故俺まで召喚されたんだ。


 輝く脂肪が光の粒子と変換され、男を中心に魔法陣を描いてゆく。標準体型へと変わった男の周りに幾何学模様を描きつつ円で囲み、その外周なぞる様に謎言語の文字が記され円で囲われた。更にもう一度円の外周に謎言語の文字の輪が追加され、円で囲われる。


 その後、文字の内輪と外輪が互いに逆方向へ回転しながら魔法陣をかなりの勢いで拡大していった。

 

 拡大に合わせ内部の幾何学模様は複雑化し、魔法陣の上下に新たな魔法陣が展開され立体的な魔法陣へ。立体魔法陣ってカッコいいよな。


 最終的に魔法陣は球体状に展開され、その中心から放たれる光に球体状の魔法陣は満たされていく。魔法陣の内側にあるため光に包まれていく家々の中に俺ん家も含まれていた。光の球体が収束する様に消えると画面には早朝の閑静な住宅地が映っており家や土地に魔法陣の影響はないっぽい。


 そして先程の男が寝ていた部屋が映るが男の姿は無く、あるのは寝ていた形跡が残るベッドだけだった。今の立体魔法陣により異世界召喚が実行されたのは間違いないだろう。


 ところで、魔法陣に俺の家も巻き込まれてたんだけど……もしかして俺、巻き込まれただけですか?


 映像が切り替わり、画面には空に浮かぶ島が映されている。あの男の召喚先だろうか。


 島には港があった。港を取り囲むように街が広がっている。まさに空港、文字通りの空の港だった。滑走路など無く、船を泊めるための波止場が見て取れる。一隻も見当たらないので勘でしかないが、空を船で旅するのだろうか。


 島の底部は雲で覆われていて見えない。


 港街は港を起点に上方向へ階段状に家々が並び、美しい景観の街並みとなっている。もし、この島が海に浮かんでいたなら『水の都』と呼ばれていてもおかしくはない。


 街の一番高い所にある通りは港と反対側が高さ数メートルの壁になっており、壁の向こうは木々の生茂る山が広がっている。山との境になっている壁は崖のようでもあった。この街は山を切り開いてつくられたようだ。

 

 映像は島から港街へ近づいていく。港街の全体が画面いっぱいに映った所では止まらず、崖のような壁とその壁の上にある森の茂みだけしか映らなくなった。


 一拍置いて茂みが揺れ、高校生ぐらいの少年が飛び出してきた。数メートルある壁の上から空中へ。


 何かから逃げるように飛び出してきた少年は、逃げた先が足場の無い空中である事に驚き、非常口のピクトグラムみたいなポーズで固まった。この瞬間の映像は少年の横と斜め下方向、正面からの順に三アングルで映され、画面から下へ消えるように少年は落下した。


「こいつ……もしかして、さっきの寝てた人か?」


 寝顔と顔芸な驚きの顔しか見てないので分かりづらいが、同一人物のようだ。そうでないと映像が繋がらないので間違い無い。こいつも若返ってる。


 この少年が適合者——召喚の目的だとするとこの島に異世界召喚の手掛かりがある可能性が高い。


 今の画面には倒れている姿しか見えないから顔の確認はできないが、少なくとも痩せて標準的な体型に変わっている。まぁ、魔法陣が出た時にはすでに痩せてたような気もするが。


 少年が立ち上がるが後ろ姿を映していて顔が確認できなくて少し焦ったい。少年が少し歩き街を見下ろすと映像も追随するように動き、画面には少年の後ろ姿と銀色の薄い霧に包まれた港街が映る。それに合わせて流れてくる主題歌らしき音楽。


 先程とは逆向きに見る街並みは銀色の霧も合わさって幻想的でもあった。ただ、島の全体像を見てなかったら島が空に浮いてるとは分からなかっただろう。というか、これ音楽付きだったんだな。


 「!?」


 街並みに気を取られていたが、少年が負っていた傷が銀色に変色したと思ったら傷など無かったように傷痕も無く治っている。こいつ、再生系のチートを得たのか? 使えそうなチートで羨ましい。


 映像は港街の景色から暗い通路を歩く少年のものに切り替わる。パソコンの電源ボタンみたいな光しかなく、物の輪郭くらいしか分からないような所を歩いている。


 何かを見つけたようで少年は立ち止まり手を伸ばす。


 ただ、映っているのは少年の後姿で何を見つけたか分からない。分かるのは、少し光っていて少年の顔くらいの高さにある物体だということだけ。有力な手掛かりになりそうだから回り込んで映して欲しいんだが……ダメだった。


 また、映像が切り替わる。


 二人の少女と猛禽類っぽい不思議生物が少年と話していた。会話の内容は聞こえないが、黒髪ロングの娘が少し顔を赤くして黒茶ショートのアホ毛っ娘に肘で突かれている。口説かれているようだ。どちらも可愛らしい娘だが、少年は胸は小さくてもある方が好みらしい。

 黒髪の娘は右手に鳥の脚を模したグローブをしていて、ちょっと残念な娘なのかもしれない。


 次の場面は幼女が浮いている。ネコミミで、おまけに露出多めのセクシー衣装だった。まだ早い。


 続いて映ったのは、おっとりとしたスタイル抜群のお姉さんと少年にさっきの幼女だ。何故かネコミミがウサミミに変わっているが……お姉さんと幼女の衣装逆にして欲しかった。


 映像が変わって島が映るも、空中戦艦の主砲らしき攻撃によって島が沈んでいく。沈む様に落ちていく島はやがて雲に包まれて見えなくなり、画面は暗転した。


 嘘だろ……異世界召喚の手掛かりが墜落しちまったぞ!?


 これで映像は終わりと思ったら、この物語の登場人物が並んだ絵が映し出された。少年周りに二人の少女と鳥、ウサミミの幼女にお姉さん、軍服の少女にボーイッシュなたぶん女の子、後はシルエットが取り囲みこちらを見上げている姿が映っている。


 それで終わりのようだ。なんかサラッと登場人物が増えてるんだが、突っ込んだら負けだろうか。


 と言うか、俺ほとんど関係ねぇじゃん。

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