第一部

序章 PVは次回予告に含まれますか?

第1話 PVって次回予告なの?

「どこ? ここ……」


 目を覚ましたら草原に立っていた。


 後ろを振り返ると遠くに森が見えるが、それ以外は長くても膝までの草しか生えていない草原が広がっている。地平線なんて初めて見た。


 うららかな日差しに柔らかな風が心地よく、ここで寝転がりもう一眠り……ではなく、おかしい……昨日は風呂に入って、ネットで次回予告集やアニメのPVを観て、ベットで寝たはず。


 俺は理系の大学に通う大学生だ、芸能人みたいにドッキリにかけられる可能性は無いし、そんなことをする友人もいない。


 そもそも友達がいな……少な……いない。


 拘束とかされた痕跡も無いから拉致されたわけでも無いだろう。

 おまけに、最近気になり出してたお腹が引っ込んでいる。身体が全盛期の高校入ったくらいの感じがするのも妙だ。全盛期と言っても筋肉質なわけでもなく中肉中背の体型だけどな。


 結論、これは夢に違いない。


 だから、夢である証明をしようと思う。

 方法は簡単。目を覚ませばいい。


 頬をつねる? ナンセンスだ確実性が無い。

 夢の外部からの刺激でないとだめだ。夢の中で頬をつねった所でそれは夢内部での刺激に過ぎない。そもそも、頬をつねるのは夢じゃ無いことを確かめる為の方法で目的と反している。あと、痛いは嫌だ。


 夢の中から外部、現実世界に影響を与えることで外部からの刺激を得る。難しく思えるかもしれないが、俺にはいい考えがある。



 だ。



 以前トイレの夢を見ておねしょをした時、尻に冷たい感触がして飛び起きたことがある。布団まで濡れていなかったのは幸いだった。本当だよ。

 つまり、おねしょによって股間周辺を湿らす事で冷感な刺激を夢外部から与える作戦だ。

 おねしょによるリスク? アパートに一人暮らしの俺におねしょで失うモノは無い! むしろ洗濯物が増える。やったね。


 では、作戦を実行に移すとしよう。


 作戦内容は簡単!

 用を足すだけ。ただし、漏らすのは夢の中とはいえ不快そうなので却下。いつもトイレでする様に、大草原のど真ん中で――いざ!


 HOUNYOU放尿


「はぁ〜〜」


 思わずため息がもれる。

 ああ、なんという爽快感! 開放感!! のどかな草原で人目を気にする事無く、用を足すのがこれほどまでとは思わなかった。スッキリしたよ。


 用を足した後その場を離れ、ズボンをあげて手を洗う。いつものように蛇口の下で手を合わせ、水を流して洗う。


 水が冷たくて気持ちいい。



 …………なにか変だ。



 蛇口など無かったはずと思い、洗っている手の方を見る。


 何も無い空間から、そこに見えない蛇口があるように水が出ていた。


 なにこれ。


「いつの間に俺は魔法使いになったんだ。まだ10年近い猶予があったはずなのに……」


 そうつぶやいたが、そういえば夢の中だったなと思い直して流れ続ける水を見る。透明度の高い綺麗な水だ。いつまで流れ続けるのだろう? ……いい加減止まらないか、と考えていると水は出なくなった。


 どうやら意識するだけで止められるようだ。


 同じように手を乾かせないかと思い、店のトイレにある風で水気を吹き飛ばすアレのイメージで手を下に向けプラプラさせる。すると手首から少し離れた所より掌と手の甲に向かって強めの風が噴きはじめた。感覚的に風の噴射位置を動かせない気がしたので手をゆっくりと引っ込めるように動かし、手に残っていた水気を飛ばした。


 手を乾かすことができた。


 できたが、風は勝手に止まってはくれないようだ。

 風よ止まれと意識すると風の噴射は止まった。

 どうやら夢の中の俺は魔法使いになったらしい。


 あぁ……テンション――上がってきた!!


 前に突き出した右手の肘に左手を当て、足を前後に開いて――キメ顔で叫ぶ。


「燃え盛る炎よ! ファイヤー!! ボーール!!!」

 

 


 草原に俺の声が虚しく響いて終わった。




 何も起きなかった。




 心なしか精神的に疲れた気がする。


 は、恥ずかしいぃぃ。


 特に何もイメージしなかったのがいけなかったのだろうか? などと考え、湧き上がる羞恥心を抑えようとしたが無理だ。


 顔が熱い……耳まで熱い!


 きっと耳まで真っ赤になってるだろう。顔を押さえて転がり悶えて気を紛らわしたいが、さっき用を足した所の上では流石に夢と言えどしたくない。


 もし、寝言で叫んでいたらと思うと目を覚したくなくなって……く……る……


「やっちまったぁぁぁ――――――!!」


 俺は重大な事実に気づき寝癖頭を掻き上げ、絶叫を上げた。



 俺、今春休みで実家に帰省中じゃん……。



 この歳でご近所に布団に描いた地図を晒す羽目になる……どうしたものか。とにかく、起きないことには何もできない。早く目を覚さなければ……いや待てよ、そもそも目を覚ます為におねしょをしたのではなかったか?


 冷たい感触はが尻や背中にも、股間や腹にも無い……となると――



「――夢じゃ、無い!?」



 まてマテ待て、夢じゃ無い? 現実だとでも? バカな……さっきの魔法は? どう説明しろと!? 魔法が実在しないからと、魔法っぽいことのできる理系の道に進んだ俺の立場は? 一体全体どうしたと言うんだ……夢ならば覚めて……いや、夢じゃ無いんだっけ? いかん、落ち着け……落ち着くんだ。


 そうだ、深呼吸しよう。

 

「吸って〜、吐いて〜」


 よし、もう一回。


「吸って〜、吐いて〜」


 ……うん、俺は誰に深呼吸を促しているんだ。


 改めて深呼吸した。


 よく考えたら理系の高校選んだのは、機械の義手と錬金術が出てくる漫画の影響。理系の大学を選んだのは、実習でやったプログラミングが面白かったから。うん、魔法あんまり関係なかったかも。


 思考が逸れた。


 これが夢で無くて、魔法が使えるとなると……これはもしかして――


「――異世界転生!! いや、生まれ変わって無いから異世界召喚か?」


 異世界となると当然、アレだよな。

 再びテンションが上がってきた俺は、用を足した所からさらに離れて足を肩幅に開き――右手を前に突き出し叫ぶ。




「ステータス!!」




 俺の声が草原に虚しく響いただけだった。




「そうだ今時はこっちだよな。プ、プロパティ!」




 何も起きなかった。



 顔が熱いです。



 こうなったらもうヤケだ、思い付く限りの言葉を試す。



「ステータスオープン! ステータス表示、鑑定、自己鑑定、メニュー、ログ、ログアウト、ヘルプ、ウィンドウ、セーブ、ロード、オプション、ダイアログ、コンソール、チェック、プリント……」



 途中で突き出した手を逆にしたり両手にしたりしたが何の効果も無く、俺は暫くの間ただただ適当な言葉を垂れ流すのだった。



 「……ニォン、ごんぞるまそ、ごんぞるまそ?」



 いつの間にか思考停止し、意味不明の単語を吐き出すだけになっていた。ごんぞるまそって何だ。


 喉も渇いてきたので一旦中止して水を飲む。手を洗った時の要領で。手を合わせて水を出し、軽く手を洗い、手で水を受け止め、手に口をつけて水分を補給する。


 この水、味がしない……


 改めて自分が何をしたかったのか考え直す。

 情報が欲しかった。決して異世界にテンションが上がって浮かれていたのではない。……嘘です。

 しかし、ステータスが表示されたなら現状を知る手掛かりにはなっただろう。今の自分のことだけでもいいから知りたいと思い、新たに思い付いた単語を口にする。


「プロフィール」


 なんか出た。


///

///


 が、目の前に俺の名前と年齢やらが表示されたが近すぎて見づらい。

 もう少し見やすように離れろ――と、意識すると普段スマホやタブレットを使う位置くらいまで離れてくれた。


///

 里神 空太郎 〈変更可〉

 16歳

 スキル

 ・次回予告

///


 里神さとがみ 空太郎くうたろうは俺の名前だがちょっと待て、俺は21歳の大学三年生……いや来月から四年生だぞ……楽しみにしていた卒研が遠のくではないか。


 違う、そうじゃない。


 すでに大学に通っているのだから若返ったところで問題はない。むしろ体型が一番良い時期に戻ってラッキーだ。それに異世界から帰還できるかどうかも分からない現時点で気にすることではない。


 真に気にすべきは名前が変えられる点……ではなく、スキル『次回予告』だろう。異世界召喚特典のチートって事でいいのだろうか?


 未来予知的な感じだとチート感ある。

 

 【次回予告】について何か情報を得られないかと表示された文字の【次回予告】の部分に触れようとしたが擦り抜けてしまい、触れなかった。いけると思ったんだが……もしかして水や風の魔法を止めた時のように意識しないとダメなのか?


 【次回予告】の部分に意識を向けて、再度触れようと手を伸ばすと触ることができた。スマホの画面を触っているような感触だった。


 手を離すと表示が切り替わる。


///

 次回予告

 〉三界見聞録

 ・空の書PV

 ・海の書PV

 ・陸の書PV

 〉その他

 ・特典映像(暇神連合より)

///


 うん、チート感は無かった。

 というより。


「次回予告ねぇじゃん!」

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