【次回予告】はチートスキルですか? いいえ、特にそんな事はなかったのでケモ耳美少女の嫁のご両親方に鍛えられてから異世界を廻る事になりました。     三界見聞録〜陸の書〜

真偽ゆらり

プロローグ 次回予告が見せる未来

 俺の名はソラ。この異世界に来て出会った少女、ティアナと草原を駆けている。白い虎に乗って。


 黒地に白丸斑点の虎耳にグラデーションが金から白、紫へと美しい彼女の髪を横目に【次回予告】のスキルを起動。この異世界に来た時に得たスキル、【次回予告】はステータスに『次回予告』の映像を投影する。ステータス自体が何も無い空間に文字を表示させる技能なので早い話、空間に『次回予告』映像を映すスキルだ。


 白い虎を駆る彼女の腰に手を回し二人乗りをする中スキル操作補助の為に右腕を自由にさせ、同一の『次回予告』映像を複数展開し目的の部分まで各々の映像を早送りして一時停止する。

 腰に回していた腕の片方が離れた事を察して彼女は振り返り——


「ねぇ! この先の景色、次回予告で見た地形に似てる! 似てるよね?」


 ——淡い紫水晶アメジスト色をした大きな瞳を爛々と輝かせて問い掛けてくる。

 俺のスキルで観られる『次回予告』は条件を満たしたモノに限り他者に見せる事もできた為、彼女も今同時展開している『次回予告』を閲覧済みだ。

 ただ、彼女に閲覧許可を与えると何故か今俺達が乗っている虎も観れてしまう。以前それが原因で壁に激突したので、『次回予告』の停止画像は彼女には見えない設定で展開している。


「確かにそっくりだ。たぶん、この丘の向こうで襲われてるか襲われそうになってるんじゃないか?」


 俺達が観た映像は、今走っている付近を上空から見下ろした光景で狼型の魔物に襲われる馬車が見え次第に馬車の辺りを拡大していき商人の男が襲われそうになる所で終わっていた。


「あ、じゃあアレやるから手伝って?」

「分かったから前向いて。右脚でいいか?」

「うん、お願い!」


 彼女の腰に回していた腕を、胴を一周するように回してしがみつく。彼女の脚先へと手を伸ばす際に振り落とされない為に。


「準備はいい?」

「いつでも!」


 伸ばした手の指先へ魔力集め、魔法を発動。

 五指の先から彼女の右脚へ断続的に静電気が流れ始める。鳴り続く静電気特有の音と共に彼女の右脚は脚絆ごと帯電し、紫電を纏い輝く。

 俺と彼女が着ている黄と黒の繊維で編まれた服は絶縁性と帯電性のある素材からできており感電することは無い。

 その上、彼女と虎には並外れた雷への適性がある。

 電気系統の魔法だけでなく自然現象の雷を受けても重傷を負うことも痺れることが無く、今現在の右脚の様に紫電を纏って強化される。


「跳ぶよ!」

「いや、もう跳んで——」


 「と」と聞こえた時点で騎乗している白い虎が丘の天辺から空へと天高く跳躍していた。

 眼下には『次回予告』で観た『馬車が狼型の魔物に囲まれている』映像とよく似た光景が広がっている。どうやら間に合ったようだ。


 彼女がやろうとしているのは空からの急襲。

 俺がしがみついたままではできない。

 虎の背から落とされぬよう両脚の挟む力を強め、彼女の腰に回していた腕を離す。


 すると彼女は上昇を終える虎の背に立ち上がると更に上へと跳躍する。


「私は!」


 跳び上がっていく彼女は最高到達点で後方宙返りをしながら体勢を整える。

 紫電を纏う右脚を魔物へ向けて伸ばし、両腕は翼の様に後ろへと広げた姿勢は必殺技を繰り出すヒーローの様だった。


「空に煌めく、大地を穿つ閃光!」


 彼女は両手から金色の光を炸裂させ加速して——


青天霹靂虎空牙蹴撃ティアナ・ストライク!」


 ——紫電の流星と化し、魔物の群れへ。

 直撃と同時に脚に溜め込まれた紫電が解放され、衝撃と電撃が群れる魔物達を呑み込んだ。

 この一撃で魔物の群れは粗方片付いたが群れの端にいた僅かな個体はまだ生きている。

 運良く生き延びた個体を空襲する虎の背から飛び降り、俺も魔物の残党へ拳を振り下ろす。


 牛の角を生やし、体毛に植物の葉や実が混じる狼型の魔物『香草狼牛ハーヴルフ』は嫌と言うほど狩ってきた。

 異世界に来て、旅に出るまでの約半年で。


 故に、この魔物の弱点は良く知っている。

 頸椎に真上から一定以上の力で打撃を与えるだけで簡単に気絶し、更に強い力でやれば確実に仕留められる。


 落下速度も加わった俺の拳は確実に魔物の頸椎を砕き絶命させた。そのまま地面へ接地する前に魔物の身体を蹴って跳躍し、身体を捻り回転して遠心力と全体重を乗せた肘鉄を近くで無防備を晒す魔物の首に叩き込んで仕留め着地。


 慌てふためく様子の魔物と目が合った。


 俺の存在に気付いた魔物の突進を左後方へと躱し首に組み付く。この魔物は身体の構造上、上を向く際の可動域が広くない。故に強引に頭を上へ捻ってやっても致命傷となる。


 魔物の死を確認し、周囲を警戒するも動く魔物はいなかった。それどころか、スパイスを煎った様な食欲を唆る香りが辺りに漂っている。

 彼女、ティアナの一撃で魔物の体表にある香草類が焼けたせいだ。早めにこの場を去るべきか。


「ソラ! 私、近くに魔物が寄って来てないか見ておくね。あっちは任せた!」


 白い虎の背に乗り、馬車を指差すティアナ。

 彼女は勘がいい。

 近くに魔物がいるのか、それとも……。


「大丈夫ですか?」


 この後、馬車に声をかけた事を後悔する。


「ふん、来るのが遅い! 助けを頼んだ覚えもない。金は払わんからな!」

「えぇ……父さん、お礼ぐらい言おうよ」


 出てきたのは欲の皮が突っ張ってそうな腹の出た狸親父と小綺麗な男の子。二頭引き馬車の荷台には香辛料の類が入った袋が幾つか積まれているのが見える。襲われた原因はこれか。


「おい。あの白い虎、私に任せてみんか?

 白いのは珍しい、高値で捌いてやるとも」

「……」


 家族を売れと?

 俺が拳を握り締めるのに気付きもせず狸親父は話を続ける。


「あの獣人もいいな。よ——」


 でっぷりと欲が詰まっているであろう腹を殴り、下がった顔面を蹴り飛ばす。

 狸親父は勢いよく魔物の死体が転がっている辺りまで転がっていった。丸いからよく転がる転がる。


「ぎ、ぎざま……」

「喋るな。次は手加減しない」


 怒気を込めて睨む。

 父親を心配そうに見ている息子には悪いが狸親父は敵と認定した。


「あの、父さんがとんだ失礼を……ごめんなさい」


 改めて子供の方を見る。

 親子の割に似てない。

 それに服も親のと比べるとかなり質素だ。


「なんでアレといるんだ?」

「えっと、僕……商人になりたくて」


 人が仕留めた魔物の死体から断りも無しに葉や実を剥ぎ取りにかかる狸親父から目を離さずに子供と話をつづける。


「下調べとかしてないだろ」

「え? うん、父さんはそんな必要無いって」

「この辺で香辛料は高く売れない。あの魔物は香草狼牛ハーヴルフって香辛料を好み、護衛をこなせる冒険者であれば敵じゃない程度の魔物だ」

「それ知ってたらこんな目には……あ!」

「本気で商人になりたいならアレの元を離れ、何処かの商会に弟子入りでもした方がいい」

「そうします」

「そうか。じゃあ餞別代わりに教えてやるよ。あの魔物は目当ては香辛料だ。次、襲われた時は香辛料を燃やせ。香りが強くなって囮代わりになる」

「ありがとうございます」

「それとこの場所は早く離れた方がいい。この香りにまた香草狼牛が寄ってくるからな」


 身体強化を掛けて跳躍し、その場を離れティアナの元へ。空中で彼女の手を取り白い虎の背に乗る。

 一応対策は教えた。最悪、あの子供だけでも馬に乗って逃げられるだろう。


「ティアナ、どう思う?」

「え? う〜ん……子供は助かる気がする」

「ならいいや。行こうか」

「は〜い。行くよ!」


 彼女が乗っている虎に指示を出し、虎は俺達を乗せて走りだす。

 帰りは急ぐ必要もないので道沿いに走る。

 少し進んだ所で彼女は前を指差し振り向く。


「ねぇソラ、あの木……」


 周囲の木々と葉の形や色が異なる一本の木。

 特段珍しい木ではないが、『次回予告』の映像で馬車が襲われる場所に一本だけ生えていた特徴的な木と同一のモノに見える。

 そういえば、先程馬車が襲われていた所には生えてなかった。


「それにさっきの群れも『次回予告』で見た群れより数が少なかったよ?」

「言われてみれば……確かに」


 となると『次回予告』の映像に映っていた場所は此処で、二度目の襲撃だったのか?


「どうする、ソラ。もう一回助ける?」

「別に助ける義理も無いんだよな……」

「あ! 馬の数も違ったよね?」


 映像に映っていた馬の数は一頭。

 映像の襲われそうになっていた商人はさっきの狸親父で間違いないが子供の方は映っていなかった。子供は逃げて無事っぽいな。


「じゃあ、助けなくていいや」


 スキル【次回予告】が観せた『次回予告』に映る未来を変えられるのかを試す為に来たが、その行動すらも折込済みの『次回予告』だったらしい。


 虎に乗る少女と少年が道を行く。

 少年は少しだけ若返った俺、少女は異世界に来て出会った大事なひ……と……。

 見ている光景が少しずつぼやけてきた。


 あれ、どうして俺は俺を見ている?

 ふと気付いた。

 今まで俺は俺を俯瞰視点で見ていた事に。

 俺は何を見ていたんだろうか……。


 見ていた光景は滲み、ぼやけていく。


 意識は微睡み、記憶があやふやに。


 眠い……もう何を見ていたか思い出せない。


 俺が見ていたのはただの夢だったのか、それとも未来だったのか……。




 穏やかな陽射しと頰を優しく撫でる風に沈みかけていた意識が再び浮かび上がる。

 そして目を開けた時には、既に俺の異世界生活が始まっていたのだった。

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