第2話 源泉と根源
芸術家ドット・マシューメンは己に言い聞かせていた。その夕暮れの、血のような夕暮れの空と海。その真ん中にあって、その光景と対峙して、波にさらわれる足元の砂を感じながら、その怯える心を叱咤しながら、そこにある現実を直視しながら、その脅威を前にして、彼は芸術家であり、ひとりの人間であろうとした。その心意気こそがムゥサに適う。それこそがアーティストであった。
「空よ、海よ、オレは怯えない!」
彼は言い切った。そう言い切ったときの彼の心には、あふれんばかりの勇気と希望があった。
「なんのためにか、オレは生まれ、オレは生きた。しかし、オレはもう怖れない! オレは生きる! 生きる! 生きる!! オレにとって生きることは創ること!! この業を背負って、オレは生きよう!! それこそムゥサの思し召し。命じるままに生きよう、オレは人にあらず、オレは道具だ!!」
どどう、どどう。波の音。びゆう、びゆう。風の音。天地の間にあって、彼は一個の芸術家であろうとした。その彼の絶唱は、とめども尽きぬ勇気と希望の言わせるところ。この世界に対する開眼、人間に対する興味と好奇心。なぜ、なぜ、この世界は創られたのか。そして人々の日々の営み、その向かうところ。
人生? おお、人が生きる。それはまったく完全に謎である!
「しかし! もっとよく見せてほしい!!」
この世界にたちこめていた霧が吹きはらわれて、陽光の下、それが姿を現した。
歓喜と畏怖に、彼の心の平衡は何度も何度も乱れた。ぐるぐるとうずまいて、そして空へと放り投げられた。ここか、そこか、しかして、どこだ!? 世界を、世界を、世界を見つけろ!
「この世界とは何か!?」
周りの誰に問いかけようにも、ただ自然が解読不能の雄叫びを上げている!
「オレはそれを知るぞ!!」
答えを求めて、トッドは吼える。その答えをいつか、トッドは見つけるだろう。抑えがたし、ムゥサに対する信仰! ついに彼は胸を引き裂き、真っ赤な心臓を天高く捧げたのだ!!
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