第9話 創作料理
創作は読者を得て完成する。この思想を私は信じてみる気になった。
なぜなら私は絞られたはずである。カラカラになるまで絞って絞って絞り切って、一つの作品を吐き出したはずである。にもかかわらず私は潤った。それは読者がその視線を注ぐことによって。
言葉遊びにも似たおままごとを、幻想を、おとぎ話を、それは現実に関与する一個の事実としてくれた。だから私は感謝の心とともに読者の未来に幸多かれと願わなければならなかった。それは一つの誇りとして。
遠い道のりを歩いて、コルッチョはたどり着いたのかもしれない。マフソーの街に。
「ごきげんよう、旅人さん。いったいどうしたというのだね?」
「どうしたと聞くのかい? それはね、ようやくたどり着いたのさ。この街に」
「物好きな人だよ。このマフソーの街には何にもありゃしないのに。すぐに退屈してよその街に行きたくなるだろうねえ」
「何を言ってるんだい。そんなことはないさ。なにせようやくたどり着いたんだもの。だからこそ、大切にしたいのさ。この街にたどり着いたという一つの現実をね」
「これはこれは、ますます物好きな人だね。だったらまあご自由に! この街を好きなように歩き回ってござい!」
「そうさせてもらうさ!」
さて、コルッチョはまずは腹ごしらえとばかりに、街のリストランテに上がり込んだ。
「このリストランテで一番のおすすめを食べさせておくれよ!」
「そいつはいいがね、旦那! なにせこのリストランテは三ツ星だもんで、お高いんでさ! なんと水を飲むだけでも1ルーブリかかるってんだからねえ!」
「そいつぁ! おったまげたさ! そんなこともあるんだねえ!」
「うるせえ!」奥から支配人が出てきた。「いったいに、食うのかい!? 食わないのかい!?」
「食わせろ!!」
コルッチョは獰猛に叫んだ。
「よしきた!」
支配人は獰猛な笑いを返し、厨房へコックの尻を叩きに行く。はじまった! ここは戦場だ!
「おまたせえ!! ボルゴウヌ風メッサモラビオ、おまちい!」
テーブルの上に載ったのは、まさに得体のしれないものであった。料理と言えるのか、それすら怪しい。ベスビオ火山の思わせる裾の広い盛り上がりとなったガーリックライス、それが巨大で真っ白な丸皿の上に乗っかっている。頂上からあふれるのは火砕流ならぬ赤とオレンジのギトギトした油の流れ。その流れはやがて丸皿のふちに湖を形作るであろう。これでいいのか!? いいのだ!! これがボルゴウヌ風メッサモラビオなのだ!!
「ようし!」
気合とともにコルッチョは銀のスプーンを手に取り、大きくすくって口に運んだ。
「ふうむ!」
コルッチョの鼻から吐き出された息は風となって世界を巡った。読者を得て創作は完成する。それはコルッチョの鼻息のように、世界を巡るのだ! ありがとう!!
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