第7話 パープルブラッズ
昼下がりの公園で手を切ったとき、突如として紫色の血が流れ始めた。それを見たとき、私は一つの感慨にふけっていた。あれはいつのことだったろうか。青い血を流す二足歩行の頭の大きい銀色に輝く人間を見た気がしたのだ。あれはいったい、どういうことだろうか。
その紫の血が流れ始めたとき、私はそれを見ていたということだ。手をしげしげと。手のひらをしげしげと見てみれば、その流れ出た血はどんどんと腕の方へ流れていく。この紫色の血は何だろうと、どんどん考を進めていく。私は考えていた。この紫色の血はどうしてこんなにも存在を、ただここにあるという意味における存在を主張するのか。赤い血であれば、私は包帯を巻いて、すべてのケリをつけていたことであろうに。
私はずっと見ていた。紫色の血が腕の方へ流れていくのを。
「おじさん、それ、どうしたの?」
少年たちが集まってきた。私の紫色の血を珍しがっている。私は少年たちによく見えるように傷口を、そこから流れ出る紫色の血を彼らの前に差し出した。
「これ、なんだろう? 赤でも青でもない、その混色なんだ」
一人の少年の言葉に、私は思い当たることがあった。そうだ。母は地球人だった。しかし父は。もしかしたらあの話は本当だったのかもしれない。私が幼いころ、おとぎ話として聞いていたあの話が。なんでも、私の父は宇宙人だったというのだ。そしておそらくは、父の身体に流れていた血の色は青、なのだ。ということは、私はこの宇宙で愛が全宇宙規模において通用することを示唆した偉大な存在であるということになる。
愛の偉大さとは何か。思うに、私はつなぐことにあると思う。それはつなぐのである。本来、離れて存在する、あらゆるものを。そしてつなぐということは宇宙の始まりをも想起させる。
宇宙の始まりにおいて、すべてのものはつながっていた・・どころではない。全てのものはたった一つのものだったのだ。そして今、宇宙は膨張し続け、いろんなものの距離は遠くなりつつある。そして愛は、すべてをもう一度、始まりの物語へと収束させるために作用しているのである。おお、ということは。それは何を意味するだろうか。つまり、それはこういうことを意味するのだ。すなわち、やがて宇宙は終わり、そしてまた始まる、ということを。
少年たちとともに、私もまた、私の傷口から流れ出る紫色の血を眺めていた。この血は意味していた。宇宙の始まりを、愛の力を、絆を。さあ、ともに歩もう。私は知っている。この世界にある、ありとあらゆるものを。そう、この紫色の血が証明しているのだ。すべては一つであり、また一つに戻るであろうということを。
「おじさん、バイバイ!」
少年たちは私の血を眺めるのに飽きて、サッカーを再開した。
「ああ、バイバイ」
また会おうじゃないか。私は小さく、そうつぶやいた。風が吹いて秋が香った。私の口もとには自然と笑みが浮かんでいた。
また会おうじゃないか、友よ。あなたのしあわせを祈らせてほしい。
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