輸入雑貨店開業



その頃も孤独だった。

出版社の倉庫で働き、仲間もいるにはいたが、心底心を許せる友は1人もなかった。


なぜか中国人の張さんとは気が合った。

張さんは日本の大学を出て、その会社で働いている中国人で、とても優秀な人だった。


私たちは昼休みなどに一緒に弁当を食べることが多く、次第に仲良くなり、お互いのことを語り合ったりした。


いい仲間ができたな、と思っていた矢先、妻とも知り合い、付き合うようになった。


そんなある日、張さんが会社を辞めるつもりだと聞いて驚いたが、張さんはこんなことを私に話した。


「私の兄が、ある企業の副社長になりました。その会社、色んなことやってる。貿易も色々やってる」


「レネさん、あなた中国の手織りの絨毯とか見たことある? 百貨店でものすごい値段で売ってる。30万円とかでね。他にも汕頭の刺繍とか、色んな高価なもの、海外に輸出してる」


「レネさん、私帰国したらその会社で重役として働く。だからレネさんにこれまでの感謝の意味で、最高のビジネスチャンスあげる。

私、そういう高価なもの、レネさんに直接売るよ。レネさんは、それを直輸入してどこよりも安い値段で日本で売る。どうでしょう?もうこんな倉庫で働く必要ないよ。本なんかもうからないからね」


輸入? ビジネス? そんなこと俺にできるだろうか?

私は不安だつたが、それから次第に本気で貿易のことなど勉強し、張さんにやってみると伝えると、やがて張さんは帰国して暫くして、本当に私に山ほどの高価な商品を送りつけて来たのだった。


支払いはすぐじゃなくても大丈夫。レネさん、頑張って!


実際、送られてきた絨毯や汕頭、その他の雑貨は思ったよりも安い値段で、私は直輸入を武器に他の店よりずっと安い値段でそれを売ることが可能になったのだ。


とりあえず、商品を倉庫に預け、貯めた金と僅かな借金で、小さな店舗を借り、内装工事をし、最低の金額でとりあえず店づくりをして、2ヶ月後くらいには、自分で夢にも見たことのない、輸入雑貨店の店主におさまっていたのだった。


そしていざ蓋を開けてみると、さすが張さんの見立ては正しく、客の人数は少ないものの、とても客単価の高い、いっぱしの商売が見事に成り立ったのだった。


ほっとひと安心。

今の妻とも結婚し、大連のご両親に挨拶に行き、実にスリリングな輸入雑貨店の経営と、結婚生活がほぼ同時にスタートしたのだった。


人生、何があるか分からないね。やっぱり出会いは大事。


今回はルー大陸さまからお題を頂戴し、どうして輸入雑貨店を始めたか、について書いてみました。


わたしは、人から何々について書いてくれ、と言われるととても書きやすく、楽しいのです。


これを読んでくださった皆様、ルー様を始め、何かテーマを頂戴できたら幸いです。


今後もよろしくお願いいたします。

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