静かな祈り



あの頃は、寂しかった。

父親にカンドウされ、都内の2食付きの新聞配達の寮に入り、僅かな給料の中から貯金をし、やっと自分でアパートを借りたあの頃。


寂しかったし、何より心身共に疲れ切っていた。


母親や姉とも殆ど会うこともなく、やめた高校の友人がまれに遊びに来てくれたが、自分が生きる意義を見いだせず、毎日ただバイトをして、アパートに帰って眠る生活をしていた。


スペインにいる友人が、来年早々に遊びに来てくれと言っていたので、それだけを生きる支えに、日々を凌いでいた。


きょうは、その頃のことが、何となく思い出された。


静かな土曜日で、外からは雨音だけしか聞こえない。


何か、今までとちょっとだけ違った、落ち着いた気持ちになっている。


腰痛持ちだから腰は痛いし、不安神経症なので、日々の不安は数えればキリがない。


しかし妻がいて、子供がいて、コロナで世の中さんざんだけど、何とかこうして生活している。


あの頃の、やっとアパートを借りて自活していた頃に比べれば、随分マシだと思う。


コロナで亡くなられた方々、国内外を問わず、言葉もない。


自分は、この平和が続いてくれたらと、きょうはただそればかり祈っている。

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