冬の海岸
Mさんは整った顔立ちをしているが、美人とまではいかない。背が低く、よく言えばちょっとぽっちゃりしている。
自分の彼女は背の高い、キレイでスリムな子、という憧れを抱いていた私は、じゃあなぜMさんと付き合っているのかよく分からない。
何でMさんに惹かれたのかもよく分からない。大学に入って、1年生の文化祭の時、映画研究会主催の映画鑑賞会で知り合った。
北国出身の、ドイツ文学を専攻する頭の良い子だったが、純粋で、まだまだうぶな印象だった。
もしかしたら、そこに惹かれたのかもしれない。
私たちは、校内でもよく会ったし、一緒に映画にも行ったし、真冬に、海にも一緒に遊びに行った。
Mさんには、私は自分のことを素直に話すことができた。
高校をやめ、バイト生活をしたあと、僅かな金を握りしめてスペインへ行ったこと。
スペイン滞在中に親と和解し、スペインには1年くらいいて、帰国してからまた高校の卒業資格を取るために、定時制高校へ1年通ったこと。
そして不安神経症を発症しながらも、すぐに大学を受験して、今こうして一緒にいること。
Mさんはそうした話を冬の海を見ながら黙って聞いてくれた。
そして、ただひと言だけ、A君(私)って、強いんだと思う、と言った。
どうにでも解釈できると思う。
A君って、強いんだと思う。
A君って、弱いんだと思う。
A君って、考え過ぎなんだと思う。
A君って、繊細なんだと思う。
A君って、・・・・・・
「寒いね、どこか喫茶店でも入ろうか」
私が言うと、
「うん」
とMさんは応じた。
私はMさんといると、何となく自分を受け入れてもらっているような、安心感があったのかもしれない。
何でも話を聞いてくれたから。
海の見える喫茶店で2人コーヒーを飲んでいると、粉雪が降り始めた。チラチラチラチラと、細かい雪が降る。
「オレって、強いの?」
唐突に、私は尋ねた。
「たぶん」
Mさんはそう答えたと思う。そして、
「A君は、強いよ。大丈夫だよ、きっと」
「本当に?」
「本当に」
その後Mさんとは、なんだかんだ卒業まで付き合ったが、卒業してそれっきりだから、34年会っていないことになる。
今、どうしているだろう。
連絡をとるすべはない。
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