信州にて



 先日、信州まで葬式に行ってきた。いとこのたっちゃんの2人の息子のうち、兄のほうが34歳の若さで亡くなったのだ。

 この、たっちゃんのことは以前「祖母の隠し味」というエッセイに書いたが、私たちは物心つく前からの仲良しで、しがない薄給取りの私と違い、たっちゃんは温泉ホテルの社長をしている。

 しかし5年ほど前から、たっちゃんは奥さんとうまくいかず、別居しているのだった。


 姉と列車に乗り、目的地が近づくにつれ、冠婚葬祭の苦手な、不安神経症の私は、吐き気を感じて薬を何粒も増やした。


 姉と2人で会場に着き、たっちゃんたち家族の出迎えに何と挨拶したら良いか分からず、私はただ、「言葉もありません」と言った。たっちゃんと奥さんは、ちゃんと仲良く並んで出迎えてくれた。


 葬儀の参列者は、たっちゃんの関係者はほとんどなく、亡くなった息子さんの関係者だけだったが、それでも650人にのぼった。34歳の若さで、何と付き合いの広い子だろうと思った。


 葬儀が済み、私たちはたっちゃんの用意してくれた、たっちゃんが社長を務めるホテルの1室に入った。よく気配りの行き届いた、とてもいい宿だった。

 温泉に入り、豪華な夕食をいただき、夜は早めに布団に入ったが、目が冴えてしまい、眠れなかった。

 たっちゃんとたっちゃんの奥さんのことを考えると、本当に胸が痛んだ。そんなことを、布団の中で姉と話した。こんな悲しいことがあるだろうかと。

 亡くなった息子さんには嫁さんと、4歳のひとり娘がいた。嫁さんの気持ちを考えると、布団の中で眠れないままに悶々とせざるを得ない。これからの生活なども大丈夫なのだろうか。

 そんなことを考えているうち、禁煙を始めて半年にならない私は、ひどくタバコが吸いたくなって困った。


 翌朝、たっちゃんに挨拶をして私たちはホテルを出た。

 私と姉は、またため息をつきつき、到着した上りの列車に乗った。

 東京の方へ向かう列車は比較的空いていて、私はやっと少し眠気を覚えた。


 山は冬枯れている。それらが背後へ次々と駆けていく。

 私の意識はとろとろと遠のいていく。もうタバコは吸いたくない。

 知らぬ間に私は窓辺にもたれかかって、たっちゃんと奥さんが、仲良く並んで笑っている昔の夢を見ていた。

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