タカシくんに会った



きょうの午後、雨の中たまたまバスに乗っていたら、途中からひとりの男子高校生が乗ってきた。

身体が小さく、猫背で、俯き加減のその高校生には見覚えがあった。

そう、以前うちの近くに住んでいた飯島タカシくんだった。

何年振りだろう。タカシくんが小学生の頃にタカシくんの家族は引っ越してしまったから、もう10年振りくらいかもしれない。


大きくなったものだ。そして随分しっかりしてきた。そう思った反面、今高校2、3年生だとして、そう考えるとひどく小柄で、相変わらず暗く、大人しそうであった。


タカシくんがまだ7、8歳の頃、うちの妻と、近所に住んでいたタカシくんのお母さんとは仲がよく、タカシくんのお母さんは、たまにうちにお茶など飲みに来たりしていた。


「私、もともと身体弱かったから、若い頃から色んな薬飲んでいたの。そのせいだと思うのよね。タカシの発育が遅れてるの・・・」

タカシくんのお母さんは、そんなことを妻と私に話してくれたことがある。


それから10年、タカシくんはやっぱり弱々しそうだった。でもちゃんとレインコートを着て、綺麗に手入れされたバッグを持って、そういう意味では立派な高校生と言えた。タカシくんが恥ずかしい思いをしたり、いじめられたりしないようにとの親心があらわれていると思った。タカシくんのお父さんやお母さんが、タカシくんのために買い揃えてくれたのだろう。お父さんお母さんとしては心配も多いだろうと思う。タカシくんが学校でいじめられてないかとか、多分色々考えるだろう。私だってそうだったのだから。だからそういうタカシくんの両親の気持ちを想像すると、胸が痛む。

タカシくんを心配する、あの寂しそうな表情をしたお母さんの顔が目にうかぶ。


でも、こうして見ると、なかなかどうして、タカシくんも立派じゃないか。


頑張れよ、タカシくん。

タカシくんには優しいお父さんお母さんがついているんだ。


私は自分の子供に言い聞かせるように、そう呟いた。


やがてバスは終点に到着し、タカシくんは駅に向かって歩いて行った、ただそれだけの話。

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