第2話 死んではじまる物語
「おお神よ。死んでしまうとは情けない」
目を覚まして直ぐに聞こえたフレーズに僕は戸惑っていた。
え、僕の事? 僕って神様だったけ?
なんて、寝ぼけた事を考えてしまうくらいには戸惑っている。
「はぁ!? それが自ら魔王討伐に同行した神に言うセリフ!? て言うか、そこは神じゃなくて勇者でしょ。『おお勇者よ。死んでしまうとは情けない』でしょ!?」
神父様に掴みかかって、怒鳴る少女。
髪が長くて、綺麗で、金色だ。
怒鳴る姿がチンピラ然としていて、僕の初恋にはなりそうには無いけれど。
「お、落ち着いてくだされ。言葉のあやですよ。女神アフロヘアー。わたぶぇあ」
「その名で呼ぶんじゃねぇ!」
少女の拳が男の鳩尾にクリーンヒット!
男は背後の壁まで吹っ飛出された。
うわー。3メートル位かなぁ。飛んだの。
見かけによらず、力が相当にありそうだよ、この子。
関わらないでおこうと決め、引いた目で彼女を見る。
いや、見ないでおこう。なんか危ない気がするし……
「私の事はロヘアって呼べって、言ってるでしょうがー!」
彼女の追撃が始まる。見なくたって分かるよ。聞こえるんだもの……。
どかっ
ボコっ
グヘっ
--。
「も、申し訳ありませんでした。ロヘア様……」
「はぁ。もう良いわよ。さっさと蘇生してくんない? ここは教会で、貴方は神官なんだから」
なんとここは、教会だったのか。
そして顔が腫れ上がっていた彼は神官様だったと……。
うわー、教会で神官をタコ殴りにする女神の図だったのかー。
なにそれ、こあい。
「は、はい。承知致しました。それではお布施に銅貨30ま」
「あん?」
「は今回私の失礼もありましたので、頂けませんね。ええ、お詫びの蘇生です。はい」
少女の人睨みで、神官様は大慌てだ。
もういっそ、投げやりにすら見える。
その綺麗な顔立ちが腫れ上がるのは嫌だもんね。見ている僕だって嫌さ。
あ、でもあの治癒魔法はもう一度見てみたいかも。
瀕死の神官さんに少女が施した、治癒の魔法。今までの惨劇が嘘のように、その時ばかりは神聖な温かい光がその場を包み込んでいた。
あれには感激しそうになったけど、マッチポンプだと気付いて少し落ち込んだ。
世界は非情に満ちているんだ……。
「それではどなたを蘇生させるので?」
「じゃ、とりあえず勇者からで」
ロヘアは僕の下に置かれた棺を指差してそう言った。
あれ、僕の下?
「承知致しました。それでは」
神官様の蘇生の呪文が始まるが、耳に入ってこない。
それよりも不思議な事が僕の中で生まれていたんだ。
僕、浮いてる? なんで?
あれ、そもそも、僕って……。
誰だっけ?
蘇生の呪文が終わり、僕の意識もそこで途切れた。
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