2.友人

抵抗できない恐怖を徹底的に植え付けられた後、連れて行かれたのは独房のような部屋だった。


「…………」


この部屋に辿り着く前に見た部屋と比べて臭いもそれほどひどくない。

部屋…というより牢屋と言ったほうが正しいか……。

他の部屋は…恐らくトイレも無かったのか

排泄物が牢屋中に散らばっていたし、扉もなく、鉄格子によって扉が構成されていた。


対してここは苔や蔦がそこら中にあるだけで…トイレも一応ある。扉も鉄製のドアで管理されている。

まるで《《お気に入りの玩具》》を扱うかのような印象を受けるが……。


入るのを渋っていると、守衛に突き飛ばされて中に無理やり入れられた。


中に光源という光源はない、外の景色も見えず、いま扉が閉められたせいで外の明かりも入ってこない。


………くそっ、俺もなにか…変われると…そう、思って………!


すぐさま鉄の扉につけられた小窓が開いて、先程の守衛が声を投げかけてきた。

「今は就寝の時間だ、何かあればソイツに全て聞くんだな。せいぜい長生きしてろ」


そう言い捨てると、守衛がすぐさまどこかへ歩いていく足音が聞こえた。


「………そいつ…?」


よく見ると…誰かが…?


「…………………奴隷を従えるのに、仕事内容を教えないというのは…どうかと思わないかい?」


暗闇の中から、少しくぐもった声が聞こえてきた。細めで…しかし、男性とすぐわかる声だった。

「彼らは頭が悪いんだ。どうもね…力は……あるみたいだが……」


「その…どちら様で……すか……?」


奥にいるであろうその男は、俺の言葉に反応し、体を揺らしてケタケタ笑い始めた。


「んふふふはは…!君、今この部屋に入って来た立場なのに…『どちら様ですか?』って…それはこっちのセリフだよ……ふふふは」


彼はひとしきり笑うと、すぐに冷静さを取り戻して答えた

「あぁ、まぁ…君も…そうなんだろうね。混乱しているんだろう…。

僕はニルスって言うんだ。君の名前は?」


「あ…あぁ、俺は……ソラって言います。アオタ…ソラ………」


「ソラ!へぇ、ソラね。いいね、いい名前だよ」


「その…ニルス…さん…?『君も』って事は…他にも誰かいるんですか…?」


「あ?あぁ…うん。いたよ。今はもういない。彼も君と同じ特別な人だったんだけどね。耐えられなくてね。」


肌を少し擦る音がした、何かを思い出してるのか……暗闇の奥の影は確かに動き始めた。


「特別…っていうのはまぁ…すぐにわかるよ。特別にも色々あるけど…君と僕の特別は少し違うね。」


「どういうこ……」


黒い影が立ち上がったとき

「どういうことですか?」なんて質問は消えた。

立ち上がった彼は背中から大きな翼を広げ、鋭い目でこちらを見つめてきた。


「鳥人族…って言うんだけどね。僕はその最後の生き残り。『翼を持つ者』なんていう二つ名がつく位……他の種族にはない飛行能力があるんだ。でも、彼らは僕が本当に特別である理由を知らない。」


だから頭が悪いって言うんだけどね。

と、小さく呟いて羽をしまった。


「とにかく…もう寝たほうがいい。君にとっても僕にとっても、明日はとにかく過酷な日になる。」


「どういう……ことですか…?」


「すぐにわかる、いいから、君とはいい友人関係を築きたいと思っているからさ、まぁ寝なよ。いい寝床ではないけど」


そう言うと、彼は奥の闇にまた潜み

しばらくすると寝息が聞こえてきた。


これ以上は何も知れそうにないな…と、目を瞑ると

ドッと疲れが襲ってきて……また…意識が………。





次に俺の意識を覚まさせたのは冷たい水だった。

鼻と耳に少し水が入り、激しく咳き込む。


「クソガキが!いつまで寝てやがる!働けぇ!」


という怒号とともに、首縄をつけられて引きずられた。


「あ゛っ……ぐ……ニ…ニルスは……!」


「あー?!アイツはとっくに労働場だぜ、お前だけだ!今働いてないのは!」


「ま゛っ…で………歩ける…歩けます……一人で…!」

「駄目だな、もたもた歩かれるよりこうやって運んだほうが効率がいい。目も冴えるだろう。」


「そん……な………!」

ニルスもそうだ、何で…起こしてくれるなり、仕事内容を教えるなりしてくれなかったのか…。


『いい友人関係を築きたい』その言葉の真意を疑いつつ…

しばらく引きずられて行くと、そこには世界史で習ったような……荷物運びの奴隷が大量にいた。


一応全員体つきがいい……しかし、何か……違和感がある。


全員、奴隷だからか誰も会話はしていない。

しかし…示し合わせたかのように……全員がこちらを見ている。


「待ってくれ…待ってくれ!何かおかしい…!なにか変だ!」

俺は今にもどこかに行きそうな守衛にしがみついた。


「あ?知ったことかよ」


しかし、守衛は取り付く島もなくどこかへ行ってしまった。


ニルス…そうだ、彼は…彼ならなにか

「ニルス…!ニルス!どこかに…いないのか…?!」


そう言って立ち上がった時、誰かが肩に手をかけてきた

「ニルッ…!」


しかし、直後拳が飛んできて、俺の脳を一気に揺らした

「お前か、ソラ……って奴は…」


「………は…?」

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羽を持つ者達 あるたいら @Osobatta

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