19 そして彼らは止められない
「……よし」
これで俺達とカイルとの戦いは、終わりを迎えた。
だけど戦いそのものは何も終わってはいない。
……多分、エルは此処まで来る際に相対した相手を全て倒してきたわけではないだろう。経験の有無なんかを考えれば、俺よりもエルの方が実力が上だとは思うけど、だとしても警備を全て倒す様な事は出来ないと思う。できたとしても、警報が鳴ってから此処にエルが辿り着いた時間を考えると、まともに相手をしていたらきっとまだ到達していないだろう。
……つまりは、追手が来る。というより、俺達の目の前に現れた。
「動くな! 大人しくしろ!」
ドール化された精霊を連れた警備員がぞろぞろと入ってくる。精霊を合わせて総勢八名と言った所か。
きっと確実に制圧する為に、突入前に態勢を整えたのだろう。生半可な人数では精霊一人止めることができなかった事を、きっとエルが証明したからだ。
だけどその基準で態勢を整えたのならば、それは間違いだ。
無意味とは言わない。こちらが取れる行動に確実の二文字なんてない。何がどうなるかなんて分かったもんじゃない。
だけど少なくとも……今の状態であるならば、八人ならなんとかなる。
つまりは、抑え込むには数が足りない。
「ってオイ……あの精霊はどうした。反応は確かに此処に――」
いる筈の精霊が居ない。その事に戸惑う警備員達に、それを考える猶予など持たせない。
片っ端からぶっ飛ばす。
そんな思いで俺は剣を構える。それと同時、そもそもそんな事など考えないドール化された精霊が。そして早々と状況に適応できた二名の警備員がそれぞれ動き出した。
精霊三人と警備員一人が前衛として此方に接近し、残り二人がその場で何かしらの精霊術の構築にかかる。
……迎え撃つ。
俺は全力で地面を蹴り、前衛部隊に突っ込む。
そして一閃。一番先頭に居た精霊を薙ぎ払う。
その隙を突くように作り出した剣を握った精霊と警備員が同時に攻撃を仕掛けてくるが、俺もその攻撃の隙を突くように前進してくぐりぬける。
そして僅かに遅れて連携攻撃を取ろうとしていた精霊に全力の突きを放ち突き飛ばした。
そのまま体を捻って背後を向き、風を操りながら全力で剣を振り上げ、竜巻を発生させ、追い抜いた二人に攻撃を与えつつ、天井まで打ち上げる。
そして次の瞬間、エルの声が届く。
『エイジさん、跳んでください!』
その声を聞いた瞬間、俺はそのまま上へと飛ぶ。
すると俺の真下を炎を纏った巨大な鳥の様な物が通過していた。
おそらくは後方で精霊術の構築を行っていた連中の攻撃。
俺の次のターゲットが放った攻撃。
俺は再び体を捻り、空中で方向転換。そのままの勢いで斜め下。その炎の鳥を作り出した連中と、そしてやや遅れて戦闘に参加し、術式を構築し始めている警備員に向かって、斬撃を放った。
同時にその場に居た精霊が腕を振るい、水を丸鋸のようにして飛ばしてくるが、それはいとも簡単に斬撃に打ち壊され、斬撃はそのまま精霊と警備員一人をなぎ倒す。
そしてそれを辛うじて躱した警備員の一人が右手に紫色の球体を作り出し、地面に着地した直後の俺にむけて放ってくる。
そして勢いよく放たれたそれを更に上回る速度の斬撃が、もう一人の警備員が腕を振るうことにより発生。そのまま球体に衝突し、球体は破裂。直後にそこから紫色のガスの様な者が噴出され、俺達を包囲する。
『エイジさん!』
「分かってる!」
どういう効果かは知らない。だけど間違いなく俺達に害を与える物。多分毒。そして毒の怖さはあの路地裏での襲撃で嫌という程味わっている。
だけど相手が刃物に塗られた薬物とかで無いのなら……ガスとかなら、どうにかなる。
要は吸わなければいい。そしてできることなら、触れなければいい。
俺は風を操作して、全身に風を纏わせる。
エルドさんとの戦いで、エルが光の剣を素手で受け止める為に使った応用技と同じ。俺がこの一カ月で身につけた成果。
顔が隠れる。故に息はできない。でもその間に突破して、大剣を叩きつける位の事は、容易にできる。
そして俺はガスを突っ切り、目の前で此方に追撃の術を発動させようとしていた警備員の男を薙ぎ払う。その瞬間、ガスが消滅する。どうやら術者が倒れれば消えるようになっていたらしい。
そして、あと一人。
俺がガスを突っ切った次の瞬間には、水で剣を形成してもうこちらに飛びかかってきていた。
あと一人になっても、それでも戦意とは失われていない。流石はプロという所だろうか。
でも、戦意があろうが無かろうが、関係無い。
俺達の敵である事に、変わりは無い。
完全に攻撃の隙を突くその攻撃に、エルが反応した。
避けられるか五分だったその攻撃は、エルの介入により防げる確率が大きく上がる。
相手に取って予想外のエルの登場。大怪我で全力は出せなくても、確かに放った蹴り。
それは敵を倒すには至らないが、激痛と共に動きを止める。そして一瞬でも止まればそこで決着だ。
俺は再びエルの手を握り剣にする。そして勢いそのままで警備員を薙ぎ払った。
何度もバウンドして壁に叩きつけた警備員は起き上がってこない。
「……よし」
少なくとも、目に映る敵は全員倒した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます