異世界と言えば、やっぱりチート。


 味など殆ど気にせずに平らげた食事は、それでもまだ全然足りない。ということで、2食目の同じ物を注文する。


 まず、先程のウェイトレスをガン見します。


 今はお昼の少し前のため、人はそれほど多くない。そんな中で手持ち無沙汰になった彼女は時折店内を見渡します。その時に目が合ったタイミングで手招き。


「?」


 彼女は疑問符を浮かべながらも、此方へやって来るわけですよ。ちなみに容姿はかっこいい系。そうですね。クラスで陸上部をしていそうな感じの女性です。茶色い髪をポニーテールにした美人さん。お胸もそこそこで、ブラジャーはつけていないのか微妙に外側へ垂れてるところがすこ。自然体のお胸でよろしい!ちなみに服装は、フリルなどが一切付いていない地味目の町娘って感じで、麻布のワンピースにコルセットをつけてみました。みたいな、そんな感じ。首元が露わになっているところもポイント高い。


 控えめに言って最高である(ただし、嫁の次くらいに)。


 ウェイトレスさんが目の前までやって来たところで妄想をストップ。


 食べ終えた料理を2度ほど指差した後に指を一本立て、銅貨を1枚差し出してみた。


 ウェイトレスさんは一瞬だけ考えた後、ああ!と、そんな表情を浮かべてくれた。その時の笑顔はとても魅力的でした(嫁の次……)。


「ねるれぇなむほさえーあ!だるれきをもぁほっろあたーうほわねぅー!」


 注文を通し終えた?彼女は僕の手のひらに乗っていた銅貨を受け取る。その時触れた指先は柔らかく……以下略。


 その後運ばれて来た料理もガッツクようにして食べ終えると、ここでようやく一息ついた。


「ごちそうさまでした」


 お腹も膨れたことでこれからの予定を決めていきたい訳だが、まず、ここはどこだ?武装した一般人が普通に街中を歩く場所なんて流石に知らないぞ?聞いたこともないし。いや、あるな。異世界ファンタジーものとかでなら沢山あるぞ?


 いやいやいや。流石にそれはないか。


 ……でも、そう考えると最初の始まりには納得がいくような……いや、納得いかねぇ。なんでわざわざあんな苦労させられた訳?なんで何のヒントもなしに草原に召喚したの?意味わかんない!ぷんぷん!


 ていうかスマホ!スマホの充電どうすんだよ?これが無くなったら死ぬぞ?わかってんのか?


「のも?ぶれゎへえへゃゎ?」


 などと考えているところに、先程のウェイトレス(女神)さんが話しかけに来てくれた。


 が、何を言われているかわからない。もしかしたら他にご注文は?とか聞かれているのどろうか?


 言葉が分からないのは不便だ。せめて英語なら多少は理解出来たのに(話せるとは言っていない)。


 って、分からないことを嘆いても仕方がない。話し掛けてくれた彼女には宿屋の場所でも教えてもらおう。いろいろ考えたい事もあるし、筋肉痛で暫くは動きたくない。エロいウェイトレスさんのおかげで心も癒されているし、このままベッドに潜りたい気分でもある。


 注文を聞きに来てくれた彼女には申し訳ないけどね。


 そうと決まれば早速行動。僕はウェイトレスさんの瞳を覗き込み、必死にジェスチャーで訴えかけ始めた。


 両手を合わせて頰の横に持っていき、目を閉じて眠るようなポージング。その後、頭上で指先を合わせて三角屋根を作り、家をアピールする。最後に自分を指差した後、腕を使って✖️印を胸の前に作り、首も左右に振った。


 和訳としては、寝る、家、自分、ない。である。伝わるだろうか?


 ウェイトレスさんの表情を伺うと、なんとも難しい表情で考え込んでいる。眉間にシワを寄せ、ムムム?っとそんな擬音が出てきそうな感じ。胸の前で手を組んだりしてさ、控えめなお胸がギリギリ腕の上に乗っかった。やったぜ!


 よし。次のジェスチャーに移行しよう。


 今度は、先ほどと同じように眠る、家。までをジェスチャーすると、片手を目より少し上へ。敬礼する様なポージングで、周りをキョロキョロと見渡し、何かを探す振りをする。最後に肩を竦めてわからない。と、アピールした。


 和訳は、寝る、家、探す、わからない。である。


 最初の家がないアピールは必要だったのか?と、思わないこともないが、きっとあっただろう。僕は伝わってくれ!と、ウェイトレスさんの瞳を見つめて必死に訴えかける。


 いいや、正確には少し恥ずかしくて唇あたりを見ています。美人と眼を合わせるとか、普通に無理。


 少しの間見つめ合っていると、不意にぽんっ!と手のひらを合わせたウェイトレスさん。その時の表情は、花が咲くような笑顔であった。ふつくしぃ……(嫁の……)


「のー!ぇへゎへたにぶそぁぱへたゅなごあゎ?」


 うん。なんて言ってるかわからない。ただ、最後が疑問形だったから答え合わせをしようとしてるんじゃないかな?って思う。例えば、宿屋を探してるんですね?とかそんな感じ。ここは合ってると信じて頷こう。てか、もし合ってなくてもあの笑顔見せられたら頷いちゃうよ……。


 コクリと頷くとウェイトレスさんは嬉しそうにガッツポーズ。胸元でグッと両手を握り締めるあたり、好きです(嫁……)


 てか、いつの間に椅子に座ったんですか?相席とか、かなり緊張するのですが?じゃない。仕事はいいんですか?クビになっても知らないですよ?


「てはごへゃちきゎほぱにぶきこわたほえあよ?」


 上の階を指しながら何かを説明してくれたウェイトレスさん。もし話しが通じ合っているのならば、二階が宿として機能している的なことを言っているに違いない。一階が食堂で二階以降が宿泊施設というのはよくあるし、この店もそうなのだろう。


「ねぅれぶみんくにのほたほゅもご、てもくにそのなこほへえへぅれゎ?」


 え、ちょ、ちょっと待って。今度は何の疑問形?僕は何を問われている?せめてジェスチャーも添えてくれ。てか、もしかすると話しが噛み合ってない可能性?いやいやいや。それはないでしょ?僕と彼女だぞ?うん。それはないな。


 きっと本当にこの宿に泊まりますか?とか、幾らになりますがよろしいですか?的な感じで問うてきたんだ。そんな気がする。よく、ご注文は以上でよろしいですか?とか、こちらの商品で間違いはありませんか?って感じで再度確認を求めらることがあるか、r……。


 いや、まてよ?ポイントカードはお持ちですか?的な可能性はないか?他にも何泊ほど滞在しますか?てな感じの可能性だってあるぞ?やべぇ。全然わかんねぇ。


 どうしよう。とりあえず頷いとくか。


「のさぱんれげびほえあ!さぅれうなむほわぼをぶれゎぁなえほきこさえあ」


 うーむ。このウェイトレスさんの笑顔を見るに、これは僕が宿を取ったから店員の一人として喜んでくれているってことでおk?ありがとうございます!的な?多分そうだよね。そうだと信じよう。


 でも、お金を催促するように手を出してくれないから心配だ。本当に合っているのか?ていうか、一泊お幾らなんですか?


 えーっと。銅貨1枚650〜500円だから、大銅貨1枚で6500円?二枚だと13000円だから……って、高っ!?これ2枚で一万もするのかよ。その上に銀貨や金貨もあるはずだから、そうなると今、ちょー金持ちなんですけど!?暫く働かなくてもいいんじゃね?って感じなんですけど???やべ、恐喝とかされないよね?ちょー怖いんですけど。早く部屋に篭ろ。


 僕は大銅貨を2枚手渡した。


「らー、わん。ねぅわんぉえねをざぁほし?」


 そう言った彼女は、ゆっくりと何かを呟きながら指を折り曲げ始める。


「ほね、きほ、ぁな」


 このタイミングで右手親指が折り曲げられ、


「よな、げれ、ろを」


 このタイミングで人差し指。


「へね、むね、うるれ」


 このタイミングで中指。と、何やら3つの単語を言い終えるごとに指が曲げられている。


 その作業をする彼女の表情は真剣そのもの。だが、やっていることと言えば、掛け算を知らない小学生が必死に指を使って数字を均等割する様子に見えた。


 そんな彼女は、決められた予算内でどれだけ多くの、そして、いろんな種類のお菓子を買えるのか。それを必死に計算して悩んでいる子どものようで、とても愛らしい。控えめに言って、かわいい。


 眉間にシワを寄せて必死に折り曲げられていた指は右手をオーバーし、左手へと突入。


「どるれうるれ、きどるれ、きどるれほー……」


 6本目の指を曲げ、7本目を曲げるか曲げないかのところで一旦固まり、最後の数字と思われる言葉を言い終えずに十二分に伸ばしたところで、うんうん。と、一人でに頷いた。


「ざほぶれゎきえほごろわぼをきこさえあぱ、よろへほごあゎ?」


 今度の疑問形は何となくわかった。これは多分、6泊になりますがよろしいでしょうか?的な感じで聞かれている。だって、あんだけ必死に数えてたんだもの。ジェスチャーさえあればそれなりに予測も出来る。恐らく、一泊銅貨3枚なのだろう。それを✖️6日で銅貨18枚。これで2枚お釣りが来たら確定である。


 僕がコクリと頷くと、可愛らしい彼女は大銅貨2枚をポッケに仕舞い、代わりに銅貨を2枚を手渡してきた。


 よし。6泊する予定ではなかったが、無事に宿はゲットした。折角だしゆっくり過ごそうではないか。


「てはごむ、ぉくにそげのなこほほゃへえあ!」


 元気よく声を上げ、二階へと繋がる階段へと向かったウェイトレスさん。彼女はきっと、案内します。とか言って立ち上がったのだろうが、それが分からない僕は少し遅れて着いて行く。


 ウェイトレスさんの後ろ姿を眺めながら(主にポニテ)階段を上がり、正面に現れた扉の隣、日本で言うところの202号室で僕たちは立ち止まる。


「っっぱぉくにんこさえあ。ゎだむっねちですあぱ、こをぁはゃずのほむぐなへぅれんこさえあもごゃほめけきのけゎわたをざぁほし?てはゎち、ごゎかゅぁほむへわゎさんどえさそぉしぱほへえあよ?」


 話をしながらポッケを漁り、鍵を取り出すとこちらに向けて差し出してきた。恐らくこの部屋の鍵であろうそれを受け取ると、彼女はニコリと笑顔を見せる。


 最後は疑問形で終わった為、例の如く頷いておいた。


「てはごむ、げふわをさぶれぢ〜」


 パタパタと掛けて行く彼女を見送り、部屋のドアノブを捻り扉を開ける。が、押しても引いても、スライドさせても扉は開かない。


 鍵を差し込み捻ってみると、ガシャリと鳴って鍵が開いた。


 鍵、掛かってんのかい!と、心の中でツッコミながらの入室。真正面には木製の窓が存在し、その正面右手側にはシングルベッド。左手側には小さな机と椅子が配置されていた。入口のすぐ側、左手側にはクローゼットが設置されている為、長期滞在にも不便はなさそうである。


 全てが木製で、色のない地味な部屋に。


 これ、異世界ファンタジー系で見たことあるやつや。


 と、そんな感想を浮かべながら椅子に腰掛け、お金を取り出し机の上に並べる。色別に並び替え、その数をそれぞれ数えてみると。


 金貨32枚 銀貨47枚 大銅貨89枚 銅貨34枚


 という結果になった。小さい銅貨も普通にあったようで、僕はそれに気づかなかっただけ。マヌケである。


 ちなみにこれだけあるとかなり重く、量も凄いことになっているが、家に帰りたかった一心でここまで持ち運んだ。今となってはそのおかげで大金持ちである。


 金貨や銀貨が銅貨何枚分になるのかは知らないが、大銅貨だけでも……三食✖︎一泊で銅貨6枚だから……150日くらいはここで過ごせることになる。これだけあれば言葉を覚えることも出来るだろうし、今の状況だってなれる筈だ。


 果物をそこらに転がすと、金、銀貨をその果物が入っていた麻袋に、銅貨たちは元の麻袋に一旦仕舞う。


 せっかくの異世界転移?なのに言葉から覚えるこの状況。一体何なんですかね?チート系もある気はしないし。パクったお金だけが唯一の救いって。何それ。


 ……いや、待てよ?


「ステータス、オープン」


 ……。

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