HAND1-06
先ほどと同じように向かい合って
「センセー、カメラ使っていいっスか」
「
「感謝っス。
「お願い? なにかな?」
「カードが手元に来たら、テーブルのフチの所でチラッとめくって見せて
「カメラ……あっ、本当だ」
「
部屋の
小学校の部室にカメラ付きテーブルを常備しているようなところは全国でもそうそうないだろうが。
さておき、ディーラーポジションの足元にもモバイルPCを置くスペースがあるので、
「さっきは
「構いません」
「あの、ボタン……って?」
「ああ、すまん」
説明していない用語を使ってしまった。ボタンというのは『ディーラーボタン』の略で、本来は最後に行動を選べるとても有利なポジションのこと。ただし
「
「なるほど。それなら私も構いません」
さて、どんなカードが
「オールイン」
なんて
「え、えっと。先生。これは」
「……
答える
確かに、正しいのだ。この局面でのオールインは。
勝負を始めた段階で
ポーカー、特にトーナメント形式で行われるポーカーとは、とどのつまり相手のチップを全部
そして、大量のチップを相手から得るためには、自らも大量のチップを
もちろん
しかし
ポーカーで他人に手心を加える少女ではないことは、理解していたつもりだった。しかし
絶対に負けるつもりなどないのだ。たとえどんな
「……では、私もオールインで」
長考の末、
「わかった。それなら二人ともカードを表にして手を見せ合うんだ。オールイン対決ではそれがルールだ」
告げると、まず
場に落ちた五枚は、♥A♦7♦2♠K♣K。
両者とも、まったくかすりもしない。こうなれば当然、手札にワンペアのある
「
「………………えっと。なんというか。これですっかり終わりですか? 私の逆転は、もうありえない?」
「ルール上そうなる。全部のチップを失ったからな」
はたして、これで
「も、もう一戦!
くれないよな、そりゃ。ここで食い下がらないようなら、それこそ勝負事の適性がない。
「構いませんよ」
それもそうか。オールイン対決はどう
しかし、それで
「べ、ベットです」
「フォールドです」
二戦目は
「オールイン」
「う……。わ、私もオールインで!」
次の手は
「も、もう一戦お願いします!」
「どうぞ」
再びチップを十枚ずつ分け合って、対決を再開。おそらく
ポーカーってクソゲー。そう感じて失意を
「オールイン」
「…………オールイン、です」
結局、
「どうします? まだやりますか?」
「お願いします!」
「降りることも覚えた方が
「降りる……フォールドですか」
「例えば私が次の番でオールインしたとします。その時自分の手が
「でも、降りたら絶対勝てないですよね」
まっすぐに
ただしその意味を正しく理解するためには、降りるべき場面を知らなくてはならない。
「はい。だからこそ待つんです。勝てる手がくるのを。例えばAA……ポケットエースのような最強の手が入った時に、私のオールインを受ければ、まず負けることはありません」
AA。つまり手札がエース二枚の時。大人数対決の時でも強い手だが、
「AAなら、勝てる?」
「絶対とは言いませんが、負けたらタイミングの悪さを
「では、オールインで」
びくり、とポーカールームに
だが、やめた。
単純に興味が
「………………承知です。オールイン」
ブラフと読んだか。いや、
「二人とも、ハンドを見せて」
伝えた
「信じてもらえませんでしたか。やっぱり」
開かれたのは♠2♣6。
「マジかよ……」
あらゆる意味で
フロップであっさりQが落ちて、
「……負けました。完敗です」
力なく笑ったまま、
「待って」
その背中を
「は、はい?」
「聞かせて下さい。オールインを宣言した時、
「降りたら勝てない。勝てなかったら、ポーカーを続けられない。……ただ、そう思い続けてしまいました。私、今まで心の底から夢中になれるものがなくて、ずっと……なんていうか、さびしかったんです。でも、ポーカーをやってみたら……ううん、
「私に弱い手のオールインだと
「不思議とそれはなかったですね……。ただ、勝ちたかった。勝ってポーカーを続けたかった。そのためには今、オールインすればAAだと思ってもらえるかもしれない。それだけを考えていましたけど……ダメだったんですよね、それじゃ」
「合格です」
「判断そのものは正しいとも
ようやく
そして残念ながらと言うべきか
「四年生限定解除、してもいいかもしれないな。君になら」
「ついに五年生に手を出す気になったっスね、センセー。こりゃーあたしの
「お前な……。この
「そ、それじゃ、私……」
「
「ま、とりあえずやってみれば
「こ、こちらこそよろしくお願いしますっ! 私、絶対、絶対がんばりますのでっ!」
人員問題が今日解決するシナリオはまったく
そんな急転直下もまた、ポーカー的で
なんにせよ、三人になった。この事実は大きい。
「……って。あ、ヤバ。もしかしてこれで大会にエントリできちゃうっスか」
「ヤバってなんだ。そりゃ、
「そのための先生でしょう。それくらいのことができないなら存在価値に疑問を持ちます」
相変わらず
「
「もちろんです! どんとこいです!」
ぎゅっと両手を
「わかった。
「そんなガツガツしなくていいっスよ~。……と、言いたいところっスが、あたしもコンピュータ相手ばかりでうんざりしてたところではあるんスよね。遊びにいくのはまあ、やぶさかじゃないっス」
いや、遊びにはいかん。
「急な
「んー。まあ、なんとかなるだろう」
何しろこの部は後ろについているパトロンがあまりにも大きい。
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