HAND1-02
♥陽明学園初等部・廊下
私立
教師になるという
とはいえ、能動的な
結局、在学中は卒業すら
それにしても、よりにもよってなぜ育成対象がお
一つはどんな競技であろうと幼いうちから始めるに
もう一つは、美しく上品な女性ほど、
確かに、いかにも『ポーカーでメシ食ってます』といった感じのおっさんより、
総合的に考えると、なかなかどうしてつじつまの合う話に思えてくる。
……ま、そんなのは建前で真の理由は全く別の所にあると考えるのが
「先生、ごきげんよう」
「ああ。ごきげんよう」
すれ
「…………ん」
次の『ごきげんよう』に備えるべく視線を正面に向けると、よく見知った少女がこちらに近付いてくるところだった。
「ごきげんよう」
少しの
「………………」
無視された。
「……おいおい」
さすがに看過できず、すたすたと立ち去ろうとするその背中に向けて強めに呼びかけると、
「あら、
「…………いや、いいんだ」
イヤミの一つでもぶつけてやろうかと考えたが、やめた。口げんかを
「今日の部活はどうする? 通常営業でいいか?」
代わりに業務
「通常ではない営業方法を思いついたのでしたら
アルカイックスマイルに
まあ、気持ちはわからないでもないのだが。
「……悪かった。引き続き対策を考えておく」
「
「ああ。わかってるさ。……二階堂
そう。
「ごきげんよう」
「きゃ、お声をかけて頂けるなんて! ご、ごきげんようです、
「まあ。やめて下さい。クラスメイトに『さま』だなんて。もっと気さくでいいんですよ」
「そんな、もったいないお言葉ですっ! ああ、どうしましょう。
「ず、ずるいですっ。
「……ですから、さま付けは。……困ったものです」
つまり『
♠陽明学園初等部・五年二組教室
「ここにコインがある。裏と表の重さは同じだ」
算数の授業中、『場合の数』の単元に入ったばかりだったので少し雑談をすることにした。これからする話はギャンブルと向き合う上で基本中の基本となる。本来のカリキュラムからは外れてしまうものの、
「ちなみにこの話はテストに出ないから気楽に聞いてくれ」
そう伝えると、教室全体の空気がほどけたような感じがした。そして逆に
新任まもない
「このコインを投げて、表が出る確率と裏が出る確率、何%かわかる人?」
「
そう付け足すと、一人、また一人。やがてほぼ全員が挙手をした。
「じゃあ、
適当に児童を選んで当てると、
「どっちも50%だと思います。イカサマじゃないなら」
「その通り。確率は半々だ。じゃあもうひとつ問題。実際にやってみたら、四回連続で表が出た。同じコインを投げて、次に裏が出る確率は?」
今度は
しばらく
「何%かはわかりませんけど、すごく裏が出やすいと思います。四回も表が出た後なんですから、次はきっと裏です」
よし、パーフェクト。
「そう思うよな。でも不正解なんだ。使うコインが変わってないんだから、確率は半々のまま。たとえ四回連続で表が出た後だろうと、次に裏が出る可能性はやっぱり50%」
にわかに教室がざわつき始めた。言われてみれば当たり前の話、でも感覚としてどうしても
約一名ニヤニヤこっちを見ているヤツがいるが、とりあえず無視しておこう。
この、ある連続する法則が出現した後に、確率変動が起こるように感じてしまう事象については、主に二つの呼び名が
一つは『ギャンブラーの
そしてもう一つが、いわゆる『ツキ』『流れ』と呼ばれるもの
別に
ただひとつ確かな事実は、重さが均一なコインを投げた時、裏と表の出る確率は常に半々であるということ。
「あの、先生……」
また別の子が挙手。
「ん?
「いえ、というか。前提がヘンなのでは」
「前提というと?」
「そもそも、確率が半々なのに、四回連続で表が出るっておかしくないですか?」
「
おっと、いかん。
「とりあえず先に結論を言うぞ。それほどおかしくない。『たまたま』四回連続で表が出てしまうくらいのレベルなら、
「え、でも……」
「ちょっと小学校の算数の
「えっと、えっと……半分の、半分だから……」
「そう、それで正解。50%の半分だから25%。さて、次だ。表、表、表と三連続で出る確率は?」
「25%の半分です!」
クラスの知的
「そう! 12.5%。さあ、いよいよ表が連続で四回出る確率に
「6%って、めちゃめちゃ少なくないですか……?」
「んーと。みんな、ゲームでガチャ引く?」
「たまに引きまーす!」
「重課金勢でーす」
今ちょっと聞き捨てならない反応があったような気がしたが、
「そのガチャでSSRとかURとか星5とか、一番レアなカードが出る確率、何%って書いてあった?」
「え、書いてあるの?」
ある。ずっと昔に景品表示法で明記しなきゃいけないルールになったから。
「私、見たかも。確か、私のやってるゲームだと、3%……あ」
「3%か。かなり低いね。低いけど、ゼロじゃない。ゼロじゃないことは起こりうる。表が四連続で出る確率は、ガチャで最高のレアリティを一発引きする確率のだいたい二倍くらいだ」
そこまで
「その6%の
「どうしてですか?」
「言い方を変えれば、
「それはぜったいありえないです」
「うん。ここまで回数を
「
「覚えておいて。次のテストには出ないけど」
「先生、どうして?」
「またガチャの
「う……」
「もうわかったよね。これはどっちも
一度、しぃんとなる教室。それから
「ガチャは、ほどほどに……」
「
例えばバカラとか、ルーレットとか。場代をカジノに
「さて、
「ねーセンセー。もし勝率が51%以上ある
ようやく授業を始めようとした寸前、ずっとニヤニヤしてたヤツがますますニヤニヤしながら挙手をした。余計なことを。今日のところは教訓だけで終わらせようとしていたのに。
「……そうだなぁ。もしそんなオイシイ話が成立する場面があるんなら、ぜひ、やるべきなんじゃないか? なるべくたっぷり、長い時間をかけて」
例えば……ポーカーとか、な。
授業中にも
まったく。これでもマシになった方とはいえ、ポーカーテーブルの外ではもう少し地味に
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます