第11話 エルフ、お風呂に入る


「ここからどうしよう……」


俺は悩んでいた。お風呂に入る。それは昨日の着替えるだけと違って、この身体を触らなければならなくなる。

それは一昨日まで男だった俺にはまだ高難易度すぎるゆえの悩みだった。


実際にどのくらい高難易度かって?


それは、二次元と三次元、天地の差で違うと考えていいだろう。

もっと具体的に言えば、二次元では楽に落とせるヒロインが、三次元では鬼畜難易度になってしまうくらい違う。(本人がわかりやすいと思い込んでいるだけです)


別に女の子の身体を見たり触ったりするのは俺にとって贅沢すぎるご褒美な筈だが、自分の身体だと思うと嬉しい筈なのだが、少し気が引けてしまう。


俺は、鏡に映っている自分の変わり果てた姿を見て睨めっこする。


改めて自分の姿を見てみると、どの部分に関してもハイスペック、ハイクオリティーな気がする。三次元に疎い俺が言っているのなら尚更だ。

この透き通った腰の高さまで伸びている金色の髪で、天然の緑色の瞳。そして顔は恐ろしい程に整っている。

さらに、胸は見るからに大きく、お尻もぷりっとしている。女性かつ自分が理想としている、ボンキュッボンを体現したようだ。


「これが俺……」


これくらい自分が美少女と認識すると、さっきまで自分の身体だと気が引けるとかどうでもよくなってくる。


ごくりっ。


「ちょっと見るくらいだったら大丈夫だよな?自分の身体に付いてるものだし!自分の身体を知ることは大切だし!?」


そしてそのまま服を脱ぎ捨てて未知の世界への扉を開けようとした時だった。


「えーくん、タオルと着替え置いとく……っ!?」

「あっ」


俺のタオルと着替えを持って来た姉さんと目が合ってしまった。

姉さんの目は心なし……いや、結構引いている。


「いや、これには訳ありましてですね?」

「そうなの?私は興味ないけど、えーくんがどうしてもというなら言い訳を聞いてあげてもいいよ?」

「あのでして、自分の身体を確認して理解を高めるということをしようとしてまして……決してやましい気持ちはないです。はい」

「それで。えーくん、本当は?」

「はい、自分のおっぱいの誘惑に負けてしまいました!」


すると姉さんは、俺のタオルと着替えを無言で置いて出るぎわに言った。


「えーくんのべーだっ!」


姉さんはそう言って出ていった。そして俺はこの時思った。


俺の話し相手(三次元の)、姉さん居なくなったらマジで誰も居なくね?


その現実に落ち込みながら、俺はとぼとぼとシャワーを浴びるのだった。






その一方で姉、詩織はというとーーーー


「もう、えーくんったらっ!お胸が大好きだったら私の見せてあげるのにっ!なんで自分の大きなお胸を見て興奮してるのっ!?」


詩織は苛立っていた。ただ、えーくんことエルが、自前のおっぱいを見て苛立ってたのではなく、エルを詩織の胸に執着させることが出来なかったことを悔やんでの苛立ちだった。


「どうしたら私に気を戻せるかなぁ?」


えーくんの気を私に戻したい。けれど、腕や背中に胸を押し付けたりするだけでは足りない。

もっと刺激が強いものを。そして、それはふと頭に浮かんだ。


「よしっ、これだったらえーくんも放っておけないよねっ!」


詩織は上機嫌で、シャワーを浴びているエルのところへ向かったのだった。






そして視点は俺に戻る。


俺はささっと頭を濡らし、シャンプーを垂らして頭を洗っていた。

いままでだと、髪は短かったためにすぐ洗い終わっていたが、今は生憎の長髪で、その部類の中でも結構長いほうだ。そのため、髪を洗うだけでも結構な時間が掛かっている。

もっと効率よく長い髪を洗う方法は無いのだろうか?

後でスマホで調べておくとしよう。


お湯を出し、シャンプーを洗い流す。そして髪を片側に寄せ、視界をクリアにした。


「ふぅ……洗い終わった」


そして一息ついて身体を洗うことにした。手でボディーソープを伸ばしていく。泡だて、身体の隅から隅までごしごし洗う。

胸とかも洗わなければならないが、そこは無心で貫いた。


泡を流して全て終えると、湯船に浸かった。


「ふわぁ、あったまるー」


この温かさが身体にしみるぜ。

湯船に入ると、胸が浮いているおかげか、肩が少し楽になった。


「胸って大きいと大変だな……姉さんも結構大きいし、苦労してそうだなー」


大きい胸をもつ今の俺だからこそ、大きい胸をもつ人の苦労が今なら少しわかるような気がした。

これからはもっと巨乳を大切にしていこうと思う。

巨乳様、有り難や、有り難や。


「いやー、それにしても俺が女になるなんてなー、人生何があるかわからないもんだなー」

「確かにそうだね、えーくん。私もえーくんが女の子になるとは思わなかったよ?しかもとびっきり可愛い女の子に!!」

「ああ、そうだな。俺だってそう思うーーーーって、なんで姉さんがここにいるんだよ!?」


いつの間に風呂の中へ入り、俺の会話にしれっと入っている姉さんは、普通に風呂椅子に座って頭を洗おうとしている。


「って、普通に洗おうとしているそこの姉さん。今弟の俺が入ってるんですけど?」


「うん?私に弟はいないよ?妹はすぐここにいるけど」

「結局俺は、姉さんの中で完璧に女として認識されてるのかよ……」

「そうだよっ?えーくんはもう女の子だよ。だから私たちは姉妹だよ。ということでえーくん、私と背中洗いっこしよっ?」

「百歩譲って姉妹だとしても、そのスキンシップは難易度高めな気がするんですけど!?」

「もうえーくんはダメばっかり言うんだから。だから友達出来ないんだよ?」

「今それは関係ないでしょ!?」


姉さんは俺のツッコミに微笑むと、身体に巻いていたタオルをとった。


「じゃあ、えーくんが私の身体洗ってくれる?」


そう言ってくる姉さんは、どこか大人の色っぽさを醸し出していた。それに俺は、少しドキっとしてしまった。


「あれっ?えーくん照れてる?」

「別にっ!?照れてないしっ」

「本当かなぁ?その割には目線が私の身体にいってるけど?」


な、なぜ分かった!?


「あれ?その顔は図星かな?」

「ぐぐぐっ」

「まあ、冗談だけどね、えーくん」

「なっ!?」


姉さんは俺の反応にクスクスと笑うと、風呂椅子から立ち上がって再びタオルを巻いた。

そしてまた風呂椅子に腰を落とすかと思いや、風呂椅子の後ろに腰を落として手で風呂椅子を指した。


「じゃあ、えーくん、ここに座ってくれる?」

「えっ?俺が?」

「うん、だってえーくんだけだと女の子の身体上手く洗えなかったでしょ?」

「えっ?でも結構上手く洗えたと……」

「メンズのシャンプーとか使ってる時点でダメかなぁ」

「面目ございません……」

「よろしい。じゃあえーくん、ここに座って」


俺は風呂椅子に座った。そして姉さんは、自分専用のものであろうお風呂セットを取り出した。


「じゃあいくよ、えーくん。女の子のこといっぱい教えててあげるから」

「ほどほどにお願いします……」

「全部覚えるまで上がらせないからね?覚悟〜!」


しばらくの間お風呂は、姉さんに調教されている俺の声で溢れかえっていたのだった。


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