やさい広場のお祭り
黒鐘 蒼
第1話 前編
ここは、野菜たちの国。やさい公国です。やさい公国の北の端、カマキリ帝国との国境に近いベジタボウ村では、もうすぐ祭りが開かれるそうです。
「ねえ。ニンジンくん。お祭りまでもう4日だね。たのしみだね」
そう言うのは、ピーマンくん。ベジタボウ村のやさい学校一年生です。
「そうだね。ピーマンくん。今年は何があるのかな。綿菓子が食べたいね」
ニンジンくんもやさい学校の一年生です。
「お祭りの日にはお母さんからお小遣いが貰えるから、リッチだよ」
「そうだよリッチだよ」
2人は昨日覚えたばかりのリッチという言葉を繰り返しながら学校に向かいます。
「おはようである。諸君」
校門でピーマンくん達に挨拶してきたのは、ピーマンくんとニンジンくんの担任の先生のじゃがいも男爵先生です。
「おはようございます。男爵先生」
ピーマンくんとニンジンくんはきちんとお辞儀をしながら挨拶をします。
「うむ。正しい挨拶を出来ることはとても良い事である。続けたまえ。今日は君たちに連絡することがあるのだ。教室に入って待っていたまえ」
男爵先生は髭を撫でながらそう言いました。ピーマンくんとニンジンくんも髭を撫でる真似をします。まあ、髭なんてないんですけどね。
「おはよう。オクラちゃん」
ピーマンくんは教室に入ると、先に教室に来ていた女の子に挨拶をしました。
「おはよう。ピーマンくん、ニンジンくん」
オクラちゃんは可愛い女の子で、ピーマンくんの好きな人です。
ガラリ。
じゃがいも男爵先生が教室に入ってきました。
「もう、ピーマンくんとニンジンくんには言った事だが、諸君らには来たる日曜日のやさい祭りの手伝いをしてもらうのである。今日の授業は無いのである。直ぐにトマト親分の所に行ってやさい祭りの手伝いをするのである」
そう言われて、ニンジンくん、ピーマンくん、オクラちゃんの三人は、トマト親分の家まで行きました。
「こんにちわ。こんにちわ。僕、やさい学校のピーマンです」
ピーマンくんがトマト親分のトマトの形をした家の扉をノックします。
「あら。来てくれたザマスか。待ってたザマス」
トマト親分の奥さんのナスビ夫人が出てきました。ナスビ夫人は「あなた。坊やたちが来てくれたザマス」と、トマト親分を呼びました。
トマト男爵が家の二階からはしごで降りてきました。
「てやんでえ。おめえらがやさい学校の小僧どもか。よし、早速仕事だい!」
トマト親分の気迫に怯えるオクラちゃんの手をピーマンくんが握りました。
「おめえらには、祭りでする金魚掬いに使う金魚を釣ってきてもらうんでえ。竿は貸してやる。場所はスイレン池でえ。早く行きやがれえ!」
トマト親分は押し付けるようにピーマンくんに釣りの道具を渡しました。
「ごめんなさいザマス。言葉遣いは荒いザマスけど、あれでいて、あなたたちが来るのをソワソワして待ってたザマス。悪い人では無いんザマスよ」
と、ナスビ夫人が三人に言います。
「余計なこと言わなくていいんでえ! クソっ。早く行きやがれえ」
やさい広場のお祭り 黒鐘 蒼 @hayashitaito
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