第8話 第一世界 閑話:残された人達。
ガチャ
「ただいまー」
[乃木 若葉(のぎ わかば)]は自宅へと帰宅した。
「あら、お帰り。ライブ楽しかった?」
「うん。めっちゃ!」
「そう、良かったわね。あら?若葉、あなた一人?宙奈多ちゃんは?」
「うん。何か用事あるみたい。玄関前で別れた。」
「そうなの?いやだわ。お礼も兼ねて晩御飯一緒にと思って腕に寄りをかけたのに。」
「そう言う事は、事前に伝えないと、ソナちゃんだって予定あるんだから。」
「まあ、そうは言っても、あなたと出かける時は、いつも寄って行ってくれたじゃない。うちに一言も無いなんて宙奈多ちゃんらしくないわねー」
確かにそうだ。いつものソナちゃんなら、最後まで責任を持って事を終わらすはず。
(今回はずいぶんと慌てていたような、ん?あれ?慌ててたよね?ついさっきの事なのに記憶が曖昧な気がする。どういう事?)
少し気にはなったが大した事でもないだろうという気になったので「お母さん、私、先にお風呂入る。」と告げ自分の部屋に上がって行く。
部屋に入った若葉は自分の荷物とお土産が一ヶ所にまとめて置いてあるのを見て「あ、れ?」と呟き、その瞬間、目の前が暗転したかと思うと気がつけば若葉は湯船に浸かっていた。まるで何事も無かったように、いつも通りに。
「はー、気持ち良いー。ライブ楽しかったけど移動はやっぱり疲れるねー。」
……………ピチョン。
「ふー、上がったら明日の準備もしなきゃ。」
……………ピチョン。
「なんだろ?何かモヤモヤするなー。なんでだろ。」
………………ピチョン。ピチョン。
「ソナちゃん明日の始業式、間に合うのかな。」
………………ピチョン……
「ソナちゃん。どうか私を選んで。」
そんな呟きを無意識に放つのだった。
~~~~~~
花音が消えた。
あれから、半年。音楽業界の各団体や花音の行きそうな所への連絡、警察への捜査依頼、探偵も雇い調査してもらった。スケジュールは全てキャンセル。自分の足も使って捜せるところは多分、全て探した。出来る事は考え付く限りしたはずだ。だけど、何処にもいない。
「何処行ったの花音。」
事務所のソファーに体を埋め悲嘆の声を上げる。
花音のマネージャー[椎堂 悠李(しどう ゆうり)]は花音が消えた日の事を思い返す。
あの夜、確かに彼女のマンション迄、送ったし、お風呂も使用した形跡もあった。玄関に鍵は掛かっていた。靴を履いて外に出た形跡すらない。何せマンションの鍵が入ったいつも花音が持ち歩いていた鞄は財布と一緒にリビングのソファーに置きっぱなしだったのだ。窓の鍵も全て掛かっていた。
しかし、ベッドを使用した形跡は無くパジャマもタンスに入ったまま取り出した痕跡さえ無い。そう、忽然と花音だけが消えたのだ。誘拐だとしたら人間業では無いレベルだし、どんなマジシャンだよ!と突っ込みを入れてしまうほどの密室トリックだ。
「ホントに何処行ったのよ、花音。このままじゃ、あなた星の生け贄されてしまうわよ。」
一年掛けてようやく知名度も上がり他の惑星間でさえファンを多く持った。多くファンを魅力する歌声であらゆる階層の人達、特に[エルパイス]に強い影響力のある人達が花音を失っては人類の大きな損失になるとの考えを植え付けられれば、人知れず世界の贄にならずに済む、そう考え立てた計画が後一息の所で頓挫してしまった。
政治的に話が付けば花音の安全はほぼ確定というところまで根回も出来ていたのに。この半年で支障が出始めてきている。このままずっと行方不明のままで居れば一先ず安全であろうが花音が歌った瞬間それは終わる。
[エルガント・パイス]には歌姫の歌の波長を正確に拾う装置がある。歌姫と共に栄えた国だ。歌波長を増幅させるには正確な波長を拾うのは当然の技術だ。
悠李は開発責任者として従事していた。しかし悠李は花音の歌に魅せられたのだ。共に過ごして彼女を世界の贄などに、させたくなくなったのだ。悠李は全てを捨てて花音と共に逃げた。だか、システムそのものは[エルガント・パイス]の研究所にそのままだったのだ。奴らは花音の波長を捉えるだろう。そうなれば、花音はすぐに連れ戻される。
花音には連れ出した時から1日に一度バレないようシステムジャミング掛けていた。そして、このリゾート惑星で徐々に人気とコネを積み上げてきたのだ。
しかしシステムジャミングは1日しか持たない。そして別の不安も過る。花音には、練習時間、リハーサル、ライブ本番意外には、歌わない様に言ってある。あるが、もうあれから半年だ。あの歌好きの彼女が歌わないでいられる訳がない。なのに、彼女の波長は流れてこない。まさか死…嫌なイメージが過る。が直ぐに頭を振り考えを再開する。
「だ、大丈夫!花音にはガーディアンもいるし。そうそう遅れを取ることはないはず。…………ちゃんと機能してるよね?」
不安を拭いきれない悠李は「はあ」と一息吐くとタブレットを取りだし起動中のシステム画面を開く。それは[エルガント・パイス]にある花音の波長を拾うシステムをバージョンアップした最新の物だ。因みに[エルガント・パイス]のシステムにバックドアを仕掛けて向こうが花音を見つけた時用に監視もしている。伊達に研究主任を勤めていた訳ではない。
「今日も反応なしか。」
ガックリして頭を垂らした瞬間タブレットがアラートを鳴らした。直後、タブレットに花音の音声波長のデータが上がってきた。アラートは[エルガント・パイス]の研究所が花音の音声波長を拾った警告音だった。
「なんで!こっちは最新にバージョンアップしてあるのに、なんで、[エルガント・パイス]が先に拾ったの!………はっ!距離か!やられた!」
花音はリゾート惑星[ファリス]よりも[エルガント・パイス]王国のある惑星[ドミニオン]の近くにいるのだ。どんなに最新式で波長を拾う感度が良くても距離が遠ければ、近い距離には敵わないのだ。
「くっ、迂闊だった。まさか、この星を出てるなんて。」
直ぐに探しに行けるよう前もって準備していた荷物を抱え、宇宙港へと急ぐ悠李。
「どうか間に合って!」
タクシーを止めて乗り込み、祈る様に呟く。
タクシーは夕闇の高速道を宇宙港へとひた走るのであった。
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