第7話 第一世界:異世界の歩き方 上級編

[オネグ]市:ホテル[ペリメニ]前


「お勧めホテルはここだっけ?」


花音がホテルの看板を指指して聞いてくる。


「そうでわね。宿ログ星五つのホテルの一つですわね。後は、[ピロシキ][ストロガノフ]後[ボルシチ]とかありますわね。」


「どれにする?」


「まあ、百聞は一見に如かずとも云うし、記憶探しに時間かけるなら、とりあえず一泊ずつして最終的に一番気に入った所に連泊すればいいんじゃね?」


「お、宙奈多、珠には良いこと言うジャン!」


「珠にはってどういうことだよ!ピサーロ女学院主席、舐めんな!」


「え!主席なの!ソナちゃん!すごーい。」


「え、いや、凄くはないよ。ピサーロ女学院、偏差値そこそこだし。」


宙奈多が若干顔を赤くして目を逸らす。


「まー僕は知ってましたが!( ̄▽ ̄ドャー」


「ワタクシも知ってましたわ!( ̄▽ ̄ドャー」


「お前らはな!たく、プライバシーもへったくれもねーな。」


「でも学校かー。私は行ったこと無いから、ちょっと羨ましい。」


「え?なんで……。あ、ゴメン。ひょとして訳有りだったか?」


「あ、違うの!そうじゃなくて…。家庭教師…とかだったから。」


「え!カテキョ!実は花音てお嬢様?」


「え!違くて、そのー、あ、あはは。」


「はいはーい。とりあえずホテル行こうよ。ご当地グルメが待ってるよー」と話をぶった切るQ。


「……まあ。そーだな。いくかー」と空気を読む宙奈多。


「ありがとうね。Q君。」と花音がこっそり礼を言う。


ライブは珍しく空気を読んで無言で見つめている。

かと思ったら突然「Q!この近くですわ!肉料理の美味しいお店があるの!」と叫ぶ。


「部屋取ってからなー」


「どんだけ楽しみだよ。」


「ふふふ、ライブさん可愛いーねー。」


三者三様なコメントを残し宿探しを再開する。


「じゃ、手始めは[ペリメニ]ってことでOK?」


「異議はないよ。」


「私もー。」


「はいですのー!」


と、 皆が揃って[ペリメニ]に入る。


「いらっしゃいませ。ようこそ[ペリメニ]へ。ご宿泊でございましょうか。」


ドアマンらしき人が近づき声をかけてくる。


「あ、はい、四人で。宿泊は一応1日だけのつもりだけど空いてる?」


勿論、空いてるのは知っているが聞かないと可笑しな目で見られる事請け合いなのでとりあえず聞いている。


「はい、ございます。が詳しくはフロントでお聴きくださいませ。では、フロントにご案内致します。少々お待ち下さい。」


ドアマンが手を挙げると二人ほど駆け足でやってくる。


「いらっしゃいませ。お荷物お預かり致します。」


にこやかに声をかけてくるベルボーイ。


「「「「…………」」」」


沈黙する四人。


「えーと。お荷物は。」


気まずそうに再び聞いてくるベルボーイ。


「えと、な……いよね?」


振り返り皆に聞くQ。


「着の身着のままで連れて来たのはお前だろ、Q。」


ジト目でぼやく宙奈多。


「うっかりですわね、Q。確かに荷物の一つも持たない旅行者は怪しさ大爆発ですわ。」


「あー確かに。鞄の一つでも持ってくるべきだったねー。」


ひそひそと二人後ろで僕をチラ見しながら今更な会話をしている。


要するに皆、僕に全部押しつける気満々て事だ。ひどい‼


仕方ない。男は度胸!と言う事で、


「あ、はい。実は地元民なんですけど宿ログのオススメ見てて、一度は泊まってみたいねーて盛り上がっちゃった勢いで来たので荷物無いんですよー。ハハ。」


「左様でございましたか。当店をお選び頂き有り難うございます。それでは、フロントにご案内致しますね。」


そー言ってドアマンはベルボーイにフロントに案内するように話を通した。


「こちらにどうぞ。」


一人だけになったベルボーイに連れられホテルに入った4人は一様に感嘆の声を挙げる。


「「おおー」」


「スゲーな。」


「はー。ため息出ちゃいますわねー。」


中に入ると、まるで天然の鍾乳洞を切り開いたかの様な景観と天井には満天の星空の様に間接証明を幾つも組み込んであるロビーが広がっていた。


「こちらがフロントでございます。」


ベルボーイはそう言うとフロントスタッフに四名様ですと言って引き上げて行った。


「いらっしゃいませ。四名様でよろしいでしょうか。」


「あ、はい。よろしく。」


答えたのが、10歳そこらの少年だったからか若干、眉を潜めたが、後ろの三人のが僕に丸投げオーラを漂わせているのに気付き、にこやかに対応してきた。


流石、一流ホテルのプロは違う。そう言えばドアマンは一切、顔に出していなかった。余りに普通に対応されたので、今の自分の外見年齢設定をすっかり忘れていたぐらいだ。


「はい。かしこまりました。お部屋は如何致しましょうか。ツインとクゥアド御用意できますが。」


「じゃあ、クゥアドで。」


「おい!」


秒速で会話に割り込む宙奈多。


「なんでお前と一緒の部屋何だよ!」


「え?いやいや、普通に子供一人だけ別室はおかしいでしょ。」


「うっ!それは、」


「それにいくらお金あるといっても毎回二部屋も取ってたら直ぐに予算オーバーになっちゃうけど。」


「く、確かに。」


「と言う事でクゥアドでいいですよね?」


「わかったよ!但し、夜中に手ぇ出してきたら引きちぎるからな!」


「何を!?」


そんなテンプレ会話を挟みつつ受付をすませ部屋へ入った僕らは部屋も豪華だったがそれよりも部屋の窓から見える景色に圧倒された。


「スゲー!滝だ!」


そこには虹架かる壮大な滝があったのだ。窓を開けてバルコニーに出ると水飛沫纏う涼しい風を体全身で体感する。


「なんで!このホテルの周り普通に街だったよね!」


「これはまた、見事だね。4D…では無い…なるほど!空間軸を転位して軸ごと固定しているのか。」


「何を当たり前のことを。この世界の科学技術を考えれば、そんなに驚く事ではないですわ。」


データ丸見えライブちゃんはドヤ顔で口を出してきているが、しかしだ!そう!しかしである!それでは折角の観光が台無しだ。


「イヤ、それ、ガイド本見て訳知り顔する人みたいでかなり引くんですけど。」


「あーそれなー。」


「ふふ。確かに。」


「なッ!」


皆に突っ込まれて顔を真っ赤にするライブ。


「ふふ。」


「あはっ。」


「ははっ。」


そして目を見合せ笑い合う女子三人組。


「ふっ。」と僕も笑い「ま、今は素直に感動しとけ。」と声をかける。


「はい、ですわ。」とライブ。


「て事は、この街も観光地的なアレで中世の街並み再現してるのか?」


「まあ、そうだろうな。普通に考えて。」


「はい、そーですの。この街の近くにある[エルガルド遺跡]の景観を損なわない街作りをコンセプトにしているようですわね。」


「へーそうなんだぁ。」


それからしばらくの間、皆で、その景色を眺めていると花音が突然、歌いだした。


「楽しい時には貴方と共に♪虹架かる世界を歩きだそ♪………」


「この歌、[ビューティフルワールド]ですわね。」


「あーこの前のライブでも聴いたな、これ。」


「ふっ、最高の情景に最高のBGM……か。」


そう呟き、景色に目を向ける。


世界は斯くも美しい。だが、切り取られた世界。微かな違和感。空間の揺らぎ。世界の歪み。終わりの始まり。


そんな事を考えながら女子三人組を見ると、宙奈多が一人、怯える様な顔をしている。


(ありゃ、気付いちゃったかな?相変わらず鼻が利くなぁ。)


「よし!じゃあそろそろグルメツアーに行こうか。」


花音の歌が終わるタイミングで花音に拍手を送った後、声をかける。


「待ちわびましたわ!」


「ふふ。はーい。」


「あ、ああ。」


(失敗したかな?いきなり現実、突き付けるより徐々に情報絡ませた方が良いかと思ったのだが、これで御飯も喉に通らない程、楽しめなくなるとかになったら元の木阿弥何だよなー。うーん。どうしよう。)


「何しているんですの!Q!早く行きますわよ!」


(ライブのやつは、たく、こっちは今後の予定変更も考えなきゃなのに、いい気なものだ。)


「今行くよー。」


そう言ってQは三人に向かって駆け出すのであった。






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