第3話 第一世界:異世界旅行は突然に。

 シャトル搭乗待合室



 ~~~~~



「…ち…ゃん……ナ…ちゃん…ソナちゃん!」


「え?」


「ソナちゃん、大丈夫?」


「あ、ああ、何が?」


「何がじゃないよ!呼んでも反応ないし、少し顔色悪いみたい。病院行く?」


「え?いや、大丈夫だよ、本当に、ちょっと考え事してだけだから。」


「体抱えて?」


「え?」


 気付くと膝ごと抱えて 椅子の上に座りこんでいたらしい。


「あーごめんね。一人っ子の悲しい性というか、一人で考え事するときの癖みたいになっちゃてて、はは。」


「あ、そーなんだ。ふふふ。またソナちゃんの新しい所見つけちゃた。」


 そんな和やかな会話を続けている二人だが、宙奈多の頭の中はパニック状態だった。


 何故ならそんな癖も無ければ、そんな言い訳を考える余裕もないほどパニックに陥っているにも関わらず、口からはスラスラと言葉が出るのだ。


 あまりの出来事に、両手で口を押さえる宙奈多。


「どうしたの?」と友人は訝しげに聴いてくる。


「は、ははは、アタシ、なんだか壊れちゃたみたい。自分で自分がワケわかんないよ。」


「? どうゆうこと?」


「今気付いんだけどアタシ…貴女の名前思い出せない。」


「!? やっぱり病院行こ!ソナちゃん!ね!」


「いや、でも『あーあーマイクテス、マイクテス聞こえますかー。聞こえていましたら、にゃん🐱とお応え下さい。にゃんにゃん🐱でもOKだお!』………………」


「ソナちゃん?」


「……………『あれ?聞こえてないのか?おかしいな。疑似でも概念プログラム個体なんだから通信阻害なんて掛かるはずないんだが?』…………誰?」


「え?ソナちゃん?」


「『なんだ、聞こえてんじゃんか。焦ったぁー』誰なの!!」


「ソナちゃん、私は…」


「貴女じゃなくて、あーもー!そーじゃなくて!『まあ、聞けって。色々と疑問があるだろうがその全てを知り、解決する手立てがある。知りたいなら指示に従え。これから俺様の代理をよこす。話はそいつから聞け。

 後、返事はにゃん🐱もしくはにゃんにゃん🐱だお!大事な事だから二度言った!』…………意味が分からない。」


 頭を抱える宙奈多。


「ソ、ソナちゃん、本当に大丈夫?」


「アタシ…本当にもう駄目かも。」


「ソナちゃん!?」


「あ、あの~」


 友人の後ろから声がかかる。


 顔を上げると10歳くらいの金髪少年がいる。


「こんにちは、こちらに[分島 宙奈多]さんという方がいると聴いてきたのですが、えーと、どちらが分島さんでしょうか?」


「誰です?」


 友人が訝しげに尋ねる。


「ああ、すみません。自己紹介がまだでしたね。僕は、「あんたがっ!!」」


 突然の宙奈多の叫びに辺りが静まる。


「……」


「あんたが、代理人てか?」


「え、代理人?」


 戸惑う友人。


 そして、少しの沈黙の後、少年が語り出す。


「はい。ご想像の通りです。何からお聞きになりたいですか?」


「は!あんたが!あんたみたいなガキの使いが、アタシに何をご高説してくれるって?」


「ソナちゃん?何言ってるの?」


 友人は宙奈多の豹変振りに些か戸惑っているようだ。


「貴女に起きた状態、現在起きている状況、それと、その対策と解決方法。…とかですかね?」


 その言葉を聞いて宙奈多は理解する。


「なにが…」


「え?」


「なにが代理人だっ!てめえだろっ!てめえが人を化け物みたいな体にしやがった張本人だろーがーっ!!」


 一瞬、宙奈多の体が振れたかと思った瞬間に宙奈多の姿は欠き消え、少年のいた場所に大きな穴が現れる。


 その直後、待合室の椅子が吹き飛び、壁やガラスに天井に床、ありとあらゆる場所が吹き飛び、またその直後収束する。


 そして、埃や煙の舞う中、友人の目の前で少年が宙奈多の拳を受け止めて立ち塞がっていた。


「宙奈多さん、これ以上は友達まで殺しちゃいますよ。」


「ハッ!」として我に帰る宙奈多が友人を見つめ拳を納める。


 そして、友人に向かって「ごめん。」と呟く。


「さて、そろそろ本題に戻りたいのですが、宙奈多さん。全てを話す為にこれから貴女に会っていただきたい方が居ます。ご同行願えますね。」


「嫌だと言ってもどうせ連れて行くんだろ。本来ならお断りだがな。くそ!けどな、あんたは若葉を守ってくれたから、今回は素直に従ってやるよ!今回はな!」


「そうですか。ありがとうございます。

 それはそうと、一つ疑問なのですが、何故、僕はバレました?」


「何が?」


「いえ、正体。」


「あーそれな。簡単。しゃべり方の癖、呼吸法、話の間の取り方。まだまだあるが、隠そうたって漏れ出る情報なんて巨万と有るんだよ!」


「なるほど、御見逸れいたしました。」


「はん!」


「では、話を戻しましょう。…とその前に。」


 パチンと少年が指を鳴らすと同時に待合室は何事も無かったように元に戻っていた。しかも待合室に他の人達も突然現れた。


「え、嘘。」


 若葉が驚愕する。


 それとは対象的に宙奈多は落ち着いてその状況を見ていたが、「てめぇ、わざと若葉残しやがったな。」と金髪少年を睨み付けた。


 肩をすくめ「その方が話が早いと思いまして。」と何て事は無いといった雰囲気で少年は宙奈多に返す。


「ちっ!言ってろ。」と言って不貞腐れる宙奈多。


「因みに、ご友人のご帰宅はお一人でもよろしいでしょうか?」


 その言葉を聞いて首を振る宙奈多。


「いや、すまないが若葉の両親にも宜しく頼まれている、最後まで送って行きたい。」


「あれ!ソナちゃん!名前!私の名前思い出してくれたの?」


「あ。ああ、そうみたいだ。でも、どうして急に…。」


「(おお!?ひょっとしてこれって、まてまて、結論を急ぎすぎるな!)よし!じゃあ、若葉さん?を送りましょう!お二人とも少しこちらに」


「え?」「なんだよ。」と二人が近づく。


「では、ジャンプしますね」


 そういって、少年は手を叩く。


 気付くと其処は若葉の自宅前であった。


「へ?」


「ちっ!」


「はい、到着しました!お荷物はお二人ともお部屋に送ってあるので問題ありませんよ。お土産もバッチリです!という訳で宙奈多さんお借りしますね!」


「え?」


「あ、おい!おま……


 言うが早いか若葉の前から二人は欠き消えた。


「え?」


 若葉は暫く家の前で呆然と立ち尽くすのであった。



 ~~~~~~



「明日はゆっくり喉休めなさい。オフだからって好きに歌唄って喉潰したりしたらゆるさないからね。」


 マネージャーが叱り口調で注意を促す。


 そして、ニッコリ笑って「お休み。」と別れをつげる。


「お休みなさい。」と花音も頭を下げ自宅のマンションに入る。


 花音は一応にも売れっ子の歌手である。


 なので住んでいる所もそれなりにホームセキュリティが行き届いたマンションである。


 にもかかわらず、鍵を開け扉を開くと見た感じ10歳ほどの少女が「お帰りなさいませですわ。」と三指ついて出迎えてきた。


「すみません、間違えました。」と言って花音は扉を閉めマンションの番号を見る。


(1025室)。


(合ってるよね?)悩みながらもう一度扉を開くと真っ暗な部屋が出迎えた。


 もちろん花音は一人暮らしである。


「私疲れてるのかな?もしかして無意識の願望が幻を見せたか?

 ひゃほ~い!小学生は最高だぜー!

 って!私ロリコンじゃないよ!!」


「……………………」


「はあぁぁぁー。早くお風呂入って寝よ。」


 訳のわからない一人突っ込みを終え、荷物をリビングのソファーに投げだし、上着とスカートも投げだし、洗面所へ向かって扉を開けた瞬間、浴室に明かりが灯っていた。


「やばっ!電気つけっぱなしにしちゃてた?」と慌てて浴室を開ける花音。


「あ、すみません。お湯、借りてます。」


 其処には知らない少女が風呂に入っていた。


 年は同い年位だろうか?花音は「あっ、はい。ごゆっくり。」と言って扉を閉めた。



 ~~~



「お帰りなさいませですわ。」


 三指をついて出迎えた少女の頭にハリセンが炸裂し速攻で寝室に連れて行かれる。


「常識を知れ!お前の頭はただの飾りか!てか、お前なんでまだアポとってないんだよ!」


「えー。だっーて!こういうお約束を一度はやってみたかったのですわ!」


 ハリセンで叩かれた頭を擦りながら少女は反論する。


「アホか!そーゆー役割は、元々、僕の本分だろうが!」


「えー。ワタクシ突っ込み役、疲れましたのー。」


「な!なん…だと(驚愕(゜゜;))」


「あ、そーゆうのはいいので。」


「あ、そうなん?まあいいや。そーいや、宙奈多さんは?」


「お風呂入ってる。帰ったら入るつもりだったんですって。」


「は?あいつ他所ん家で何してくれてるの?」


 宙奈多の余りの自由さに頭痛が生じる少年。


 そして突如、〈ガチャ〉と寝室の扉が開く。


「「「あ」」」


 三人同時に声が出る。


 ドアを開く下着姿の花音が其処には居た。



 ◇



 風呂から上がった花音が頭を拭きつつリビングにいる三人に語り出す。


「えーと、もしかして泥棒さんでいいのかな?それともストーカーさんなのかな?警察に電話した方がいいのかな?」


 花音の第一声にビクリとする少女と少年。


 ジト目で少年を見る宙奈多。


「えーと改めて。初めまして。片桐花音さん。僕は[叡智究明ティオリーアルゴリズム]長いので[Q]とでも呼んで下さい。」


「はっ![Q]だって?ダサ。テメーなんざ、[だお星人]で十分だろ。なあ[猫好き!]」


「頼むからその話は止めてくれよー。さっき散々謝っただろ。僕が全面的に悪かったから、もう勘弁してくれよ。」


「あー?俺様キャラはもう止めたのかァー?なあ[Q様]?」


「もう、本当にごめんなさい。」と宙奈多に土下座するQ。


「ふふん。Qがやり込められるなんて良いものを見れましたわ!あ、ワタクシは[世界理解ライブラリー]と申しますの。気軽に[ライブ]とお呼び下さいな!」


「あー、と何だか話に入り辛いなー。えーと、私の事、知ってるって事は追っかけとかなのかな?」


「えーと、そういった類いの者ではないですわね。」


「追っかけ?………あー!どこかで見たことあると思ったら片桐花音!今日、若葉と一緒にコンサート行ったよ!あーあ、若葉がいたら大喜びだったろうに。あ、アタシ分島 宙奈多。宜しく。」


 先程まで不機嫌極まりなかった宙奈多が花音に握手を求める。


「えっ?っと、はい。」


「よろしく?」と言って握手する花音。


「ごめんねー。アタシはあんたと同じで巻き込まれた側だからアタシからの説明は一切無いよ。」


「後、お風呂ありがとうね。」とウインクする宙奈多。


「はあ。」と呆れる花音。


「それでは、誰が説明を?」


「あ、はい、ワタクシが説明しますね。どうぞそちらのソファーにお座り下さいな。」と宙奈多の座る隣を薦めると、「私ん家のソファーですけど。」とぶつぶつ言いつつ座る花音。


 Qとライブは二人が座るのを確認すると、花音と宙奈多に向き直り土下座した。


「「誠に申し訳ございませんでした。」」


「は?」


 突然の事に呆ける花音。


[Q]に至っては本日3度目の土下座である。


 それはそれは綺麗な土下座じゃったそーな。



 ◇



 淡々と状況説明がなされている。


「そう言う訳でお二人の本来の体は、別空間で、保存されています。こんな感じで」


 ライブが空中にモニターを写し出す。


 それを見た宙奈多が、「なっ!やっぱりこいつら殺っちまおうぜ!」と手を出そうとした所を花音が止める。


「えーと、とりあえず私達は元の体に戻れるんですよね?」


 花音が聞く。


「えーと」と言って目を反らすライブ。


「よーし!やっぱり殺っちまおう!」と再び手を上げようとする芽以に「私の家で暴れないでよ。」と花音はぼやく。


「いえ~方法が無い訳ではないのですが、今は無理と言うかぁ手段を構築出来ないと言うかぁ、ぶっちゃけ貴女方お二人に協力頂けないと無理ゲーなのですわ!」と涙目で懇願するライブ。


「はー。なるほど、それでアタシ達に接触してきたわけね。」


「そ、そーなんですの!ご理解早くて助かりますわ!」


「それで、私達は何をやらされるのかな?」


「はい、もうお気づきかも知れませんが貴女方の記憶の大部分がロストしております。それで散らばってしまった記憶の回収をお二方には協力していただきたいのですわ。」


 それを聞いて宙奈多は「記憶戻るのか!」とグッと拳を握って微笑む。


「それで協力はいいとしてどうすれば記憶を元に戻せるのかな?」


「あ、はい。それについては実に簡単で散らばった世界に入って自分の記憶の欠片に触れれば元に戻せますの。全部集めて補完記憶を分離して元の体に記憶を戻せばミッションコンプリートなのですわ。」


 満面の笑顔で答えるライブ。


 しかし、[Q]が説明に加わらない事を訝しげに感じた宙奈多は質問する。


「そういや、アタシ達の記憶の欠片って幾つあんの?」


 ビクリとした後、目を泳がせながら「2億3241万1906個ですわ。」とぼそり呟くライブ。


「な!いつ終わんのさそれ!」と叫ぶ宙奈多。


「そんなことだろうと思ったよー。」とぼやく花音。


 そんな中、突如パチンと手の平を叩き注目を集める[Q]。


「はい、言いたい事は色々あるだろうけど、とりあえず行動しないと始まらない事は理解できたよね。」


 それを聞いてムッとする宙奈多と花音。


「アタシら被害者だよな。」


「そうだね。」


「そんで、アンタらは加害者な訳だ。」


「そうだね。」


「なら、あんたは何で、そんな上から目線な訳?」


 宙奈多が怒りを表し始める。


「それは……」


 とライブが俯く。


「問題無いよ、ライブラリー。じゃあ、ハッキリ言おうか。

 それは僕達と君達では本来、被害者と加害者と言う関係が成立しないからだよ。」


「!?」


 その一言で宙奈多は察したようだ。


「どうゆうこと?」


 花音は理解出来ないらしい。


「くそ、やっぱり…そうなのか。」と宙奈多が呟き、後に「次元が違う……と言う事だろ。アタシらはアイツらと同じ土俵には本来いない。交わる事もない、てことだ。」


「はい。本当に宙奈多さんの目と鼻は、いえ[統合情報処理能力]は優れていますね。」


「たくっ!アタシらはいつまで経っても遣られっぱなしてことかよ。」


「いいえ。確かに本来ならこの情報はこの[世界]に公開はされません。

 故にお二人が、気づく事さえなく消滅していたとしても、それは自然現象として処理され[世界]はそれを当然のものとして受け入れたでしょう。

 ですが、ワタクシ達が一方的に悪いと言う[良心呵責プログラム]が起動したので、Qとの話し合いの結果、貴女方お二人を助けようとの結論が出たのです。

 なので、貴女方お二人に今回の情報を公開し修復する為に接触を試みた次第なのですわ。

 これでもかなり譲歩していますの。」


「「…………」」


 ムスっとしている宙奈多。


 そして、やっぱり良く分かってないぽい花音。


 それに対して[Q]は話を続ける。


「ほら、剥れない剥れない。実際に元には戻せるし、後、良い情報もある。

 実際なぜそうなるかは検証しないとはっきり言えないけど同じ記憶の欠片って近くにあるとより大きな記憶に集まる性質があるみたい。

 これって実証データは直接確認済み。」


「え?そうなんですの?」とライブ。


「そうなの。後で同期しとく。芽以さんがご友人の名前を思い出したあれとかね。」


「え、あれってそうなのか!」


 唐突思い出した記憶の理由を知ってヤル気を出し始めた宙奈多。


 それとは対象的に花音は難しい顔をする。


「はいはーい。話はまだ終わってないよ。

 結論を言うと記憶の欠片探しは思った以上に早く終わる可能性もあるということだね。

 そして、確立演算が叩き出した日数は約一年。」


「「一年!!」」


「あの~私。明後日から仕事あるんだけど。」


 申し訳なさげに手を挙げる花音。


「アタシだって週始から学校あるよ!」


 憤慨する宙奈多。


「あーそのことなら大丈夫です。このグラディオン星系の時間軸を固定セーブしてあるので、何万光年過ぎようがBack to the Future出来ますよ。」


「なんて無茶苦茶な。」と花音は呆れる。


「そういえば、こいつチートだった。」とため息をつく宙奈多。


 こうして、少女二人は愉快な仲間達の巻き込まれ冒険譚に足を突っ込まされるのであった。



 ~~~~~























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