第2話 第一世界:巡り合う二人と二人?

 時は流れ舞台も変わる



 ~~~~~~~



 ここは、 三次元平行世界[グラディオン]星系。


 リゾート惑星[ファリス]。


 この世界では、宇宙航行技術とテラフォーミング技術の向上で近場の惑星一つを丸ごとリゾート地に改変する事に成功していた。


 そしてここに二人の少女がいる。


 名を[分島 宙奈多(わけしま そなた)]。そして[片桐 花音(かたぎり かのん)]。


 二人に特別な繋がりは無かった。


 別々の星で産まれ、別々の人生を過ごしていた。


 そして二人は思っただろう、いや、思いもしなかっだろうが…


 その道は互いに関わり会うことなくその人生を歩むと。


 ここで、我が愛すべき巻き込まれペアの紹介をしよう。


[分島 宙奈多]

 分島流古流武術道場の一人娘、そして彼女は目と鼻が良く効く少女だった。


 その少女は一目で武術の型を理論的に理解構築が出来る特技を持ち、その特技故にあらゆる兆候や情報を見逃さず物事の理解とその裏にある思惑さえ見破ることを得意とする。まさに目と鼻が良く効く少女なのである。



[片桐 花音]

 リゾート惑星中にその名を売るシンガーソンガーの少女。


 あらゆる音を聞き分ける耳と天使の声などと謳われている声の持ち主であるが、星団ツアー公演等は行わず地元惑星密着型を貫く。


 にも関わらず、あらゆる惑星からファンが集まる人気を誇っている。


 更にプロフィールも何故か秘密にされ今も尚、謎に包まれているのもファンの心を掴む要因になっている。


 そんな二人の道が重なる。


 きっかけは些細な出来事だった。


[宙奈多]の幼い頃からの友人である[若葉]が[片桐花音]の大ファンでこのリゾート惑星でのライブのペアチケットを入手した事が始まりだった。


 真っ先に[宙奈多]のもとにライブを誘いきた[若葉]であったが、[宙奈多]自身興味が全く無かったので、「もっとそのライブに興味ある人を誘いなよ。」と断ったのだ。


 しかし、[若葉]は[宙奈多]が行かないなら一人で行くと言い出したのだ。


 それを聞いた[若葉]の両親はカンカンである。


 当然、少女一人で他の惑星に行かせるなど言語道断とばかりに反対され、親との長い口論の末、多少なりとも腕っぷしに覚えもあり、学校でも優秀な友人である[宙奈多]と一緒ならと言うことで[若葉]の両親は行く事を、許していたと言う結論になり、[若葉]は[宙奈多]に懇願してきたのだ。


 また[若葉]の親からも平にとお願いされれば断りようもなかったのである。



 ~~~~~~



 リゾート惑星に着いた二人はライブ前日にリゾートを満喫したあと一泊し本番に備えようといった計画を立てていた。


 ホテルにチェックインした後、直ぐに外に引っ張り出され、まずは何処を見て回ろうか!と町の中をパンフレット片手に盛り上がっている若葉の後ろ姿を宙奈多は眺めながら歩く。


 そんな時だった、頭のなかに直接話しかけてくるような何かが響いた。


「ん?何か言った?」


 宙奈多が友人に聞いた。


「え、だからぁーここで、お茶しようって」


「いや、それ以外に。」


「?」


 宙奈多の様子に小首を傾げる友人。


「うーん、おかしいなー。確かに何か聞こえたんだけどなー。」


 宙奈多も首を傾げつつも、「まっ、いっか!」と友人とお茶を飲みにお店に向かう。



 ~~~~



 同時刻[片桐 花音]もその何かを聞いていた。


 全体リハーサルを終えしばらくの休憩。


 水を飲もうした瞬間に確かに聞いたのだ。


 だが理解は出来なかった。


 一体何なのか疑問に思いながらもリハーサルの最終確認の声がステージ上に響く。


 まだ水を飲んで無かった事を思いだした花音は疑問と一緒に水を飲み干す。



 スタッフに呼ばれて、「今行きます。」と声を上げステージに向かう花音。


 疑問を残したままライブ当日は幕を開け[宙奈多]と[花音]の巻き込まれ冒険譚も幕を開けるのであった。



 ~~~~~



「いやーもうー最初から最後までサイコーだったよー!やっぱ花音ちゃんサイコーカワユイよー。」


「はは、良かったね。」


「ほんとほんと!ソナちゃんのお陰でサイコーにハッピーだったよー!花音ちゃんのライブエフェクトも鳥肌ものの綺麗さだったし」


「はは。そうだね。」


 終始ボルテージMAXの友人にはこの若干の温度差は気にならないらしい。


「でも、もう帰りかー。あーあ。楽しい時間てどうして直ぐ終わっちゃうのかなー」


 そんな友人の言葉を聞いて、「そう…だね。」と呟く宙奈多。


 そして思う。


(楽しい時ってどんな感覚なのかな。)



 ~~~~~



「打ち上げいくわよー」


 マネージャーが花音に声をかける。


 うん。と頷き、「顔出ししたら帰るね」と伝える花音。


「またなのー?どんどんビッグになるためにはこういう付き合いは必要不可欠よー!」


「そう…だね。でも私、歌えるだけで満足だから。」


「もう、またそれなの?」


「しょうがないな~」とぼやきながらも花音の頭をポンポンと平手で軽く叩き苦笑するマネージャー。


「でーも!今回のステージ、あんな凄いサプライズエフェクト組んでくれたエフェクトスタッフさん達には、ちゃぁぁーんとお礼言わなくちゃダメよ!あれのお陰でファンの皆大盛り上がりだったんだし。」


「うっ。わかってるよ~。(でもあのエフェクトデザイン。あれって…まさかね。)」


「なーにー?花音。」


「いや、なんでも。」


 直ぐに考えは霧散する。


 そして二人並んで店に向かい星空を見上げながら花音は思う。


(あー。歌いたいなー。)



 ~~~~~~



 恒星間シャトルの搭乗手続きを終えた二人は搭乗待合室にいた。


「ソナちゃん、私ちょっとトイレ行ってくるね。」


「うん?うん。いっトイレ。」


「……………」


「……………」


「ぷっ、ふふふ、なーにそれー。ソナちゃんてそんなキャラだった?」


「?」


「ソナちゃんがボケるなんて珍しいね。ふふ。」


「いってくるね。」と言って駆けて行く友人。


「…………………………!?」


 しかし、宙奈多にとっては笑い事ではない。


 アタシ、今、何を言った?余りにも無意識に発した言葉に愕然とする。


 顔が恥ずかしさで赤くなり、意識し始めると直後に自分ではない何かが突き動く衝動に青ざめる。


 そして唐突に、[自分では無いこと]を理解する。


「な……んで。」


 震えが襲う。


 両腕で自分の体を抱きしめる宙奈多が其処にいた。



 ~~~~~~~



 打ち上げ会場は盛大に盛り上がっていた。スタッフは保々保々酔っぱらいの様だ。


「主役も待たずに出来上がってるとかどんだけよ。」とマネージャーは苦笑する。


「あー花音ちゃん来たー!」


 すでに出来上がり始めているスタッフが叫ぶ。


 一斉に目線が集まり花音は慌ててマネージャーの後ろに隠れるがマネージャーに引っ張り出されてしまう。


「あのっ、あのっ」とワタワタしている花音におばちゃんスタッフの声がかける。


「なんだい花音ちゃん、一万人規模のアリーナで堂々と歌ってるってーのに、こんな人数のスタッフにビビっちゃうのかい?」


 周りで笑いが生じ、「やれやれだね。」と苦笑される。


「い、いえあの、はは。」


 花音も苦笑する。


「そー言えば!」とマネージャーが空気を読んで話題を変える。


「今日は、この子の…花音の為にサプライズエフェクトありがとうございました。」


 マネージャーがそのままお辞儀をする。


「あっ、」と気が付き慌てて花音も頭を下げる。


 しかし、お辞儀の向こう側がザワザワとざわついている。


 顔を上げたマネージャーが話し出すと、「え?」とか、「自作エフェクトじゃないの?」などと帰ってくる。


「え?えーと。スタッフの誰かが組んでくださったんですよね?」


 マネージャーの問い掛けにスタッフ全員困り顔だ。


「いや、あんたらが、自作で組んだオリジナルエフェクトじゃないのか?俺らはずっと感心してたんだぜ!気合い入ったいいエフェクトだなーて。」


「え?」


 マネージャーが振り向き問う。


「花音、貴女が組んだの?」


 ブンブンと花音は首を横に振る。


「じゃあ、いったい誰が…」


 盛り上がっていた打ち上げ会場に沈黙が降りる。


 その後、この打ち上げは、うやむやのまま解散することになる。



 ~~~~~~~~~~



 とある時間とある場所とある空間


 様々な思考錯誤を繰り返す少年少女がいる。


 幾つかの操作を繰り返し少女がぼやく。


「うーんなんだか上手くいきませんわねー本当にこの方法で合っていますの?」


「当たり前だのクラッカーデース!この[叡智究明ティオリーアルゴリズム]が間違うはずないのデスヨー!ヨー!チェケラッチョ!」


「そうですか。アホですか。冗談は顔だけにしていただけますか?

 ついでにその話し方もハッキリ言ってうざいので止めてもらえますかしら?💢」


「あ、はい。すみません。((゜゜;)ガクブル)」


「うーん、それにしても、いったい何がダメなのかしらねー。」


「周波数値をもっと絞ったらどうかな?」


「あ、はい。やってみますわね。本当に、このリンクが繋がらないとワタクシ達が肉体を得た意味が無いですわね。」


「なはは。まあねーぇ」


 z…zz…ΘΦΧ……zz…z……


「んー?なんだろ?混線してる?」


「一応、検索にはヒットはしているみたいなのでマーカー打ってみましょうか?」


「まー、そうだね。このままじゃ話が進まないし。よし!行っちゃおうか!」


「はーい。かしこまりましたですわ。」


 チャキチャキと作業をすすめる少女。


「ポイントロック。

 マーカー出力0.000000000000000000000001に固定。

 境界壁中和クリア。

 マーカー射出。

 コンタクト迄あと10カウント…8…7ん?分離した?」


 piiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiii.


 突然の警告音。


「あ、あれ!?コンフリクトしましたわよ!!」


「んな!時間軸緊急停止!コンフリクトした個体を緊急回収!同一個体データコピー!概念プログラム素体にインストール!急いで!」


「対象が二体居ますわ!」


「な!なんで!クソっ!混線してた理由はそれか!概念プログラム素体を二分化!データコピーを各個体ずつにインストール!」


「コンフリクトによるデータ欠損がありますぅ。(どーしてこーなったーですのー(泣)」


「く![世界理解ライブラリー]及び[叡智究明ティオリーアルゴリズム]からのバックアップ、強制リンク!修正・修正・修正・修正・修正!」


「データバースト停止を確認。修復開始…失敗。再修復…完了。二個体の欠損部分を概念物質で再構成、安定化成功しました。」


「…………」


「…………」


「「(はあぁぁぁー焦ったぁー(りましたわー))」」


「よ、よし。マーカーをコンフリクトした時間軸に固定したまま疑似個体設置、MLE(マインド・リンケージ・エディタ)へのMF(マインド・フィラメント)集積後、意識データのインストール。の順番で戻すぞ。」


「かしこまりましたですわ。

 マーカー固定、接続…成功しましたわ。

 疑似個体との座標リンク正常位置。

 引き続き意識データ転移…移送完了。

 尚、これにより第三平行世界とリンクしましたわ。」


「おお、不幸中の幸い!瓢箪から駒!棚からぼた餅!カッパの川流れ!」


「最後の違うと思いますけど?」


「まあ、結果良ければ全て良しって事だ!」


「結果は全く宜しく無いと思われますわ。

 あの方達の本体個体はコンフリトエラーしたままだし修復は時間を掛ければなんとかなりますが、彼女達の記憶データ、幾つか分離して何処かの世界に流出しましたわよ。

 それを補う為に使ったワタクシ達のバックアップデータからの捕捉記憶データの補填は出来ても、ある程度の混乱は確実に起きるでしょう。

 更に、[概念プログラム製疑似個体]は望めば望んだものをMF(マインド・フィラメント)で具現化する個体です。

 彼女達が無意識にそれを起動したら何が起こっているのか本人にも分からないまま世界が滅びますわよ。」


「あーですよねー。うーん。一応リミッターかけてるけど確実性を考えるなら、まあ、しょうがないかな。彼女達とは直談判しようか。」


「まあ、妥当な判断ではないでしょうか。それに直接なら説明もスムーズに済むでしょうし。」


「なら、決まりな!で、どっちがどっちに行く?」


「あーですよねー。それはそれで問題ですわね。」


 しばらく考え彼女達のデータを見やる。


「では、ワタクシは歌姫の方に。」


「OK!じゃぁ、僕は道場っ娘だね。」


「うわ、[僕キャラ]とか急にあざとくはないですか?その個体データといい。」


「性格も口調も一人称も存在さえも叡智を究明するためには幾らでも変えるさ。

 道場っ娘にはこれが良いと確立係数が叩き出したからね。

 失敗は許されないし準備は万全にしないとね。」


「まあ、そうですわね。」


「じゃ、行きますか。」


「はい、お互いベストを尽くしましょう。いつか互いの望みの頂きへ至る為に」


「ああ、そうだね。」と声を残して存在が消える。


「では、ワタクシも参りましょうか。」


 そして誰もいなくなる。


 それは、遠い昔の未来の始まり。



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