㉔天使VS淫魔~キューピッドたちの談話

『何じゃこりゃあああああああああああ』

 開口一番、アモールは叫んだ。

「ちょっアモール嬢、いきなり叫ばんでください。ここ、狭いんスから」

 と、メアは耳を塞ぐポーズをしながら言った。

 場所は、よくリリンが利用するネットカフェの一室。

 一人用の部屋に、リリンとメア、そして無理やり入ってきたアモールが占領する。

 その上、天使の羽の分、アモールは面積をとるため、メアは何度か潰されかけた。

『だって、え? 何で? 癒姫さんどっから出てきた?』

「まあ、そこは相棒的にも、気になる所ですが」

 と、アモールとメアはジト目でリリンを見る。

 その二人 (?)の様子を見て、リリンは分かりやすい溜め息を吐いた。

『見ての通りだよ。僕が、どういう形で、相手の夢に入り込んでいるかくらいは、知っているだろう?』

「えっと、おまじないサイトですよね?」

『そうそう』

 と、とても投げやりな態度でリリンは言う。

『そこに、あのケダモノプリンセスからアクセスがあって』

「その呼び方やめてあげて」

『そんなこんなんで、こーなったって感じ』

 相変わらずゆるい態度でリリンは言った。

『ちょっと待ちなさいよ。じゃあ、最初からターゲットはサユリちゃんだけじゃなくて……』

『うん、あの両刀使い系姫もいたよ』

『その呼び方もやめてさしあげなさい……じゃないわよ! じゃあ、何? リリンは、最初から癒姫ちゃんとサユリちゃんが』

『うん、知っていたよ。あの二人の縁(えにし)はとっくに繋がっている。最初から、僕らが参加する意味もなければ、そのスキすらなかった』

「ちょっお嬢。じゃあ、何だってこんな勝負を?」

『あの仮面夫婦ライダーあざといは……』

「もうツッコミませんからね」

『あの子は恋と自覚しながら玉砕クールに恋をしていた。だけど、同時に、結婚したいって気持ちもあった』

『だから、呼び方! 可哀想!』

 と、アモールは突っ込むが、すぐにリリンに先を促すように黙った。

『結婚願望はあるけど、自分の好きな相手とでは、難しい。特に、あの二人は、互いに互いの事を親友だと思って、相手が自分に恋愛感情があるとは夢にも思わなかっただろうからね』

『じゃあ、あの爽やかイケメン君は?』

『彼は彼で、ちゃんと恋をしていた。だけど、相手が自分の事をその対象として見ていない事も分かっていた。だから、あっさり身を引いたんだよ。そして、あのお姫様に出会った』

『なんていうか、凄い三角関係だったのね。だけど、あの二人は相思相愛だったんでしょ? なら、それを教えてあげれば……』

『そんな簡単な話じゃないんだよ』

 リリンが、先輩が後輩に諭すように言った。

『よく恋のゴールは結婚っていうけど、そんなに簡単なもんじゃないんだ。少女漫画じゃあるまいし、結婚した後も、物語は続いていく。それこそ、命尽きるまで、どこまでもね』

 リリンは、続ける。

『恋人の時みたいな甘い夢だけ見ている事は出来ない。結婚した後に、相手の事を嫌いになる事もあれば、大して好きじゃないけど、妥協して結婚する事だってある。人間の世界は、一見単純に見えて、だけど凄い複雑で……エンディングが一つとは限らないんだよ』

『……』

 アモールは何も言わず――しかし翼だけは感情を表すようにシュンと下に落ちた。

『あのお姫様は、特にそう。他に好きな人がいるけど、相手は自分をそういう目で見ていないし、今後そうなる事は一生ない。そう思って、諦めた。そして、ちょうどいい所に同じ人物に恋して、玉砕したイケメン君が現れた』

 リリンは、零すように笑った。

『本当に難儀だよ、人間は』

『でも、おかしいわよ。だって、イケメン君と癒姫ちゃんは、互いに他に好きな人がいるんでしょう? なのに、結婚したの?』

 しかも、その相手は同一人物なのだから、余計にややこしい。

『だから、難儀だって言っているんだよ』

 と、少し冷めた態度でリリンは返す。

『それに、その答えは、あのイケメン君が言っていただろ。彼は、玉砕クールに失恋して、新しい恋を始めようとした。つまり、きっぱり諦めたんだよ。そういう所、潔くていいよね』

『うー! アモール、分からない!』

 アモールが限界を迎えたのか、羽を大きく動かした。そのせいで、メアは左右から羽で胴体をビンタされてしまう。

「ちょっアモール嬢、羽がっ……痛いっ」

『ブタくんも、そう思う? やっぱり納得いかないよね』

「人の話、いやユニコーンの話を聞けや。というか、ユニコーンだってば」

 メアの話を聞かず、アモールは掴みかかる勢いでリリンに問うた。その時、アモールの羽にメアが押しつぶされた。

『ねえ、リリン!』

『乙女脳にも分かるように言うと……あのお姫様は、親友を性的な意味で好いていたけど、同時に、イケメン君の事も性的な意味で好いていたんだよ』

『え?』

『同性間の色恋には、色々あるけど……あの二人は、好きになった相手が偶然同性だったってだけで、別に同性しか愛せないわけじゃない』


 だから、難儀なのさ――、とリリンは自嘲気味に笑った。その笑みは、サユリが見せた、恋を諦めた時の物と似ている、とアモールは思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

サキュバス・キューピッド~淫夢で恋愛成就!? シモルカー @simotuki30

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ