㉑天使VS淫魔~淫夢の中で始める、叶わない恋
――多分、私と癒姫のいう『触れて』の意味は違う。
私が触れたいと思う意味と、癒姫が触れてほしいという理由。
それぞれ違う。
ずっと見てきたからこそ、ずっと彼女の傍で想いを殺してきたからこそ――彼女の言葉の本当の意味が分かる。
――だけど、ごめんね。癒姫……もう止められそうにない。
――だけど、別にいいよね? だって、これは”夢”なんだから。
「……っ」
果ての見えない不思議な空間の中で、私と癒姫はもつれ合いながら転がる。そして、互いに呼吸を食い合うように、深く口付けを交わした。
先程のように、一方的に追い詰めるわけでも、捕食するでもなく――互いに互いを求めるように、或いは分け合うように、幾度もなく酸素も交換する。
互いの口内をどちらの物か分からない唾液が行き来を繰り返し、それは男女の行為に似たものがあり――次第に興奮が高まっていく。最初は遠慮がちに忍ばせた舌も、癒姫に誘われるように口内に運ばれ、今では同化するように絡み合って抜け出せない。
みっともなく唇の端から零れる唾液も、はしたなく響く水音も、舌と舌が擦り合う妙な感覚も――もう何が正しくて、何が間違っているのか分からず、止める事が出来ない。
――夢の中で、私は親友を穢している。ううん、違う……
癒姫もまた、私の指に自分の指を絡ませ、逃がさないよう必死に繋ぎ止めている。
この状況が異常だと感じる現実は、ここにはない。
あるのは淫らな夢の中の、誰も知らない私達の夢の話。
きっと朝になったら忘れている。その事に多少の寂しさを感じながらも、私と癒姫は互いに求め合って、高め合って、決して互いを離さなかった。
「……はあっ……」
とても長い口付けの果て、私達はどちらからでもなく離れた。
そういうタイミングまで一緒で、まるで気持ちだけじゃなく、存在そのものも一つに溶け合ってしまったみたいに――。
「サユリ……」
息を切らして仰向けに横たわる私の上に跨がりながら、癒姫は先に進もうと手を伸ばす。
「ゆ、癒姫……」
その先を知らない私は、未知への不安から身を引こうとするが、上に跨られているせいで上手く身動きが出来ない。
「サユリ、怖がらないで……」
逃げ場のない私に、癒姫は覆い被さり、首筋に吸い付いた。ピリ、とした痛みが一瞬走ったと思ったら、次の瞬間にはそれも快感に変わっていった。
「サユリ、可愛い……」
慣れた様子で、癒姫は首元から鎖骨、胸下、と次第に下へと移動していく。
「可愛く、なんて……っ」
せめてもの反抗として、視線を逸らしながら否定してみるが――より際どい所に口付けられるだけだった。
「ふふ、そういう所が、サユリは可愛いのよ……」
「……うんっ……」
わざと音を立てながら、癒姫は肌の上を唇でなぞり降りてゆく。
「昔から強情で、頑固で……」
「それ、意味、一緒……やっ……」
「だけど、本当は寂しがり屋で……そういう強くて弱い所とか、格好良くて可愛い所とか、私、昔から好きだったわよ」
「か、可愛いのは、癒姫の方でしょ」
「うん、知っている」
と、癒姫はそこで私の肌に埋めていた顔を上げた。
「貴女が私を見る目、いつもプリンセスでも見るみたいに、憧れに満ちていて……あんな熱い視線を向けられたら、誰だって気になっちゃうよ」
「……っ」
本人に直接言われ、私は恥ずかしさから目を逸らした。
「だから、貴女の望む私でありたかったの」
「え?」
「サユリ、私は貴女が思っているような可愛いだけの女の子じゃないの。本当はガサツで、我が儘で……いつもサユリの背に隠れて、サユリの事を頼ってばかりだった。だけど、サユリにあんな憧れに満ちた目で見られたら、応えたくなるじゃない。ずっとその眼差しを向けられたいって思うじゃない。だから、私は、貴女の望む癒姫でいようとしたの。だから、貴女の目に映る癒姫は、貴女が望んだからこそ生まれたんだよ」
「私も、貴女が私の事を頼ってくれる事が、嬉しかった。私を、明るい場所へ導いてくれた貴女に、そんな信じ切った目で見られたら、応えなくちゃって思って……そして、貴女の望む、貴女の信じる、格好いい私でいようと思ったの」
互いに告白し合うと、また同時に私達は笑った。
「何だ、そうだったんだ。やっぱり、私達って、似た者同士だったんだね」
「うん、似ていない所も含めて、私達はある意味では同じなのかもね」
「ねえ、サユリ……」
甘えるように、癒姫が私の胸元に顔を埋めた。
「これは夢なのよね? だから、きっと現実に戻ったら、全部忘れて、全部なかった事になる」
「え? ええ、その筈よ。だって、これは夢だから」
そう、これは夢。
そう最初に断言したのは目の前にいる癒姫の筈なのだが――何かがおかしい。そう思ったのは束の間で、癒姫は早急に次へ進んだ。
「なら……私の全部を見ても、サユリは逃げたりしないよね?」
癒姫に押し倒される形で見上げると、泣き出しそうな顔がこちらを見つめていた。
彼女の泣き顔を見たくない。そう思って、私は彼女の頬に手を伸ばした。
「ええ、これは夢なのだから……貴女の全部を、見せて」
私の答えに、癒姫は現実では見た事のない幸せそうな笑顔で頷いた。
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