⑮天使VS淫魔~キューピッドが作る選択肢
「やっぱり暴走しているね」
アモールの様子を、会社の屋上から双眼鏡で監視していたリリンは、頭にメアを乗せたまま、呟いた。
『なんか、キューピットのイメージぶっ壊れたんですけど、あの嬢ちゃん、いつもあんなんなのか』
「まあ、あいつは、根っからの少女趣味。所謂乙女脳ってやつだからね」
全部のキューピットがそうではないけど。
と、リリンは付け足した。
「だから、失敗するんだよね、エロスは」
『失敗?』
「見てれば分かるよ」
*
人には、それぞれ繋がりがある。
友情や色恋、親愛。ありとあらゆる絆が育まれ、それは糸のように人と人を結んでいる。運命の赤い糸ーーなんてものも、本当に存在し、人には見えない『糸』が複数絡み合って、人は人と繋がりを持っている。
そして――
『キューピットアイテム、恋の矢!』
アモールが天に片手をかざすと、桃色のアーチェリーが出現した。
『これで、絆を持った当人同士の糸を打てば……あら不思議。二人の間に、運命的な何かが起きるんだよね。曲がり角でドン、風呂場でドッキリ、転んだ拍子に密着……エトセトラ』
アモールは弓と矢を構えながら、目を輝かせる。
そして、サユリと貴崎を密かに結んでいる『糸』を標的に、アモールは矢を放つ。
*
「貴崎部長、遅いですね」
乙女ちゃんが壁時計を見上げながら言った。
確かに、遅い。あれから三十分ほど経過している。彼は多忙のため、取引先から連絡があって、そのまま話し込んでしまっている場合もあるが――
――何だろう。何故か。部長の事が気になってしょうがない。
部長が席を立った後に別件で遅くなる事は、今までもあった。
――なのに、どうしてこんなに気になるんだろう。
*
『それは、恋だよ! サユリちゃん!』
窓に顔を貼り付けて内部を覗き込みながら、アモールは言った。
『いつも彼の事ばかり気になっちゃう。これって恋かな? どうして、あの子の事ばかり目で追っちゃうんだろう。もしかして、俺あの子の事……エトセトラー! どうして、好きな人の事ばかり頭に浮かぶのか! それ即ち、キューピットの仕業なり。くくく、これで貴様の脳内には、常に王道ナイスガイがちらついてしょうがなくなるぞ。貴様が、恋に落ちるのも、時間の問題だな! はーはははははは!』
*
「なあ、お嬢。キューピットって、みんなああなんですかい?」
「多分、違う」
だけど、とリリンは双眼鏡から顔を話して付け足す。
「まあ、キューピットが人間の恋を成就させるのに、”無意識”をいじるってのは、本当だけど」
「無意識をいじるって?」
「エロスがやっているみたいに、脳内に常に対象者が思い浮かぶようにして、最初は意識してなくても、徐々に気になり始める、とか。常に目で追っちゃう、だからきっと恋なんだ、て錯覚させる、とか。そうやって、人間は無意識だと思っている事も、実際はキューピッドが作為的に起こした現象に過ぎない」
リリンがつまらなそうに言った。
――何か、お嬢らしくないな。
メアの目から見て、リリンは何を考えているか分からない所がある。
元淫魔のせいか、発想が基本R18であり、恋の成就方法も対象者同士に意中の相手になりすまして淫夢を見せる、という少し頭の悪い方法ではあるが――事務員のお姉さんにしても、劇団の幸薄そうなお姉さんにしても、いい感じにまとめ、キューピッドとしての役割は果たしていると言える。
――頭悪いけど。
「そもそも、未来っていうのは、選択肢によって変わる」
「ああ、それは分かりやすよ。右を選ぶか左を選ぶか……」
「僕も、よくやるしね。①口吸い、②おっぱい、③足に・・・・・・」
「書けねえ事を言うんじゃねえ!」
メアは双眼鏡をリリンに投げた。やっぱり、こいつただのアホだ。
が、リリンはそれを避けた上で双眼鏡を両手でキャッチし、メアに戻した。
「まあ、3分の1は冗談だとして」
「本気の割合の方が大きいじゃねえですかい」
「ただ、選択肢って言っても、キューピットが考える選択肢だから、当たり外れもでかいんだよね。あ、でかいってそっちの意味じゃ・・・・・・」
「何でも下の話に持っていかねえと、会話出来ねえのか、お前は」
「でも、本当の事だよ。過去の例でいうと、あのオネショタ」
「事務員のお姉さんな」
「僕が、あのお姉さんに与えた選択肢は、①少年を追いかける、②少年を追いかけない」
「言われてみれば……」
そして、お姉さんは①追いかけるを選択した。その結果、お姉さんが少年に歩み寄った事で、二人は互いの心に寄り添い、結ばれる未来を掴み取った。
「そう、全ては、選択肢。そして、選択肢がミスっていたら、その先の未来も、ミスだらけなんだよ。それを一番分かっているのは、お前の筈なんだけどね……エーロス」
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