⑦淫夢リターン~現実で始める恋

「……っ……あっ……んっ」

 声を殺しながら、自分で自分の胸元を覆い、その先端を指で摘む。少し痛いくらい手に力を込めるが、望んでいた快感は得られない。

 ――違う。こんなんじゃ、足りない。だって、あの時の彼は、夢の中のユウ君は……。


『お姉ちゃん、すごく綺麗だ。もっと、僕に見せて。ねえ、隠さないで……手ぇどけて。ねえ、お姉ちゃん?』


 そう言って、焦らしながら徐々に私を侵食していった。力ずくで無理にこじ開ける事なく、あくまで私の意思を尊重して――、最後には、自ら私は全てを差し出した。

 ――私のこんな姿を見たら、彼はどんな風に思うんだろう。また、がっかりさせちゃうのかな。

 徐々に手を下へとずらし、足の付け根にあてがう。自分で自分に刺激を与えるが、望んだものはやはり手に入らない。

 ――彼のように、上手に出来ない。

 彼の指は全部をすくいとって、私が望む所へちゃんと連れて行ってくれた。最初はそこへ行くのが怖かったけど、彼は時に激しく、時に優しく私を刺激して、ちゃんと望む所へ連れて行ってくれた。

 ――駄目、一人じゃ、そこへ行けない。

 そこは行きそうな一歩手前で、怖くて引っ込んでしまう。本当はそこまで昇っていきたいのに、上手く波に乗れない。

 ――彼なら、私をリードして……連れて行ってくれるのかな。

 腹の奥に熱いものが溜まる感覚はあっても、吐き出す事が出来ず、ただもどかしい気持ちだけが疼いた。

 きっと夢の中の彼なら――


『どうしたの? お姉ちゃん。切なそうな顔になって……楽に、してあげようか』


 そう言って、私が屈するのを楽しそうに見つめ――最後は私の行きたい場所へ連れて行ってくれる。そして、私の知るユウ君なら――


『お姉ちゃん、僕は……』


 少しだけ恥ずかしそうに視線を逸らしながら、しばらく動けないでいる。きっとリードするのは私の役目。

 だって私の方がお姉さんだもの。少年を青年にするのも、お姉さんの役目で――。


「ユウ、君?」


 その時、彼の部屋のカーテンにシルエットが映った気がした。

 私は慌てて毛布で自分の服を隠しながら、外を覗くと、ユウ君が玄関から出て行く姿が見えた。

 ――やっと外に出れたんだ。

 いや、もしかしたら私が知らないだけで、彼はとっくに部屋の外へ出ていたのかも知れない。

「追いかけないと」

 衝動的にそう思った。

 こんなのまるでストーカーだ。

 常に彼の行動を監視して、追いかけるなんて。

 だけど、あの一件から彼と連絡がとれなくて、ずっと不安だった。


 最初は、君が愛おしかった。

 少年だった君が、突然色っぽくなって戸惑いもしたけど、少し気弱で守ってあげたくなる、君が、本当はずっと好きだった。それが恋だと気付いたのは、あの夢のせいでも、身体を重ねたからでもない。


『お姉ちゃん、僕……ずっと前から、お姉ちゃんの事が好きです!』


 あの、勇気を振り絞って言ってくれた、告白。

 あの瞬間、私の中に僅かに芽生えていた恋の芽は開花した。

 臆病なのは私の方だった。年齢や幼馴染みだからって適当な言い訳をして、自分の気持ちに蓋をした。これはいけない事だ、と見て見ぬふりをした。

だけど――君が、臆病で気弱な君が、勇気を振り絞ったから、私も目を逸らす事が出来なくなった。

 身体が求めたからではない。私は、君の気持ちが嬉しかった。


 次に、君が怖くなった。

 初めて知った事を試す子どもような、或いは欲に身を委ねた大人のような、その不安定な無邪気さが怖かった。現に、あの時の君は自分の欲をただ私に押し付けるだけで、私の事を一切気にしなかった。

 だから、本当は身体目当てだったのではないか。異性に興味があっただけで、誰でも良かったのではないか。ただのストレス発散だったのではないか。

 そんな風にも思った。


 ――だけど、今はっきり分かったよ。


 君がどういうつもりだったのかも、君が私をどう想っているのかよりも、もっと大事な事があった。

 ――ごめんね、ユウ君。私、ちゃんと言ってなかったね。

 私は脱ぎ捨てたワンピースを着ると、すぐに彼を追いかけて玄関から飛び出した。その様子と、見覚えのある桃色の猫が見ていた――ような気がした。


 ――私も、君が好きだよ。


      *


「僕、どうしたいんだろう」

 今になって、ようやく自分がしでかした事を理解した。

 ずっと好きだった年上のお姉さん。彼女に告白して、両思いになれて――それで少し思い上がっていた。

 まるで夢の続きように、欲望のままお姉ちゃんを押し倒して、乱暴を働いた。何かに取り憑かれたように、お姉ちゃんの上で無我夢中で身体を揺さぶった。その時、お姉ちゃんが悲鳴を上げていた事なんて全然聞こえず、ひたすらに――。

 そして、僕が気が付いた時、泣きはらした目で僕を怯えた目で見るお姉ちゃんと、力ずくで抑え込んだせいで、身体に乱暴された跡が残った身体と、言い訳出来ない穢した跡だけだった。

 ――あんな顔、させたいわけじゃなかった。

 ――夢みたく、お姉ちゃんの幸せな顔が見たかった。

「あんな顔、こんなの……夢と、違うじゃないか」

 こんな事になるなら、あのままの関係で良かった。

 こんな目に遭うくらいなら――

「好きだなんて、言わなきゃ良かった」

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