第317話 ん? かんわゆ!

 母のボケっぷりがひどい、という話。

 外出から帰ってきた人が、まず玄関のチャイムを鳴らす時、それは……スコちゃんが玄関先でスタンバってるときです。

 でも、今日はそうではなかったのね。


 スコちゃんはわたくしと遊んでいて、トンネルからばあっ! ってして楽しんでいたから書庫にいたの。

 で、買い物から帰ってきた母に「スコちゃんは書庫にいるから、ドアを閉めないでね。閉めちゃった?」って聞いたのに……。

「あー? んん……」っていうお返事。


 それはイエスなのかノーなのか。

 すぐに食事の支度だからって、知らん顔されて黙ってたわたくしも悪いけれど、食後2時間たってから「スコちゃん、いない。へん!」って思って書庫へ行ったら、扉が閉まってる。

 びっくりして開けたら、椅子の上で丸まってのどを鳴らしているの! 寒かったろうに! いいのよ、怒っても。


 わたくしいたわしくって、彼女を抱っこしてリビングへ入った。

 床に敷いたマットの上で、今さっき寝とぼけてるから鼻キスしたら、いつものように毛づくろい始めた。

 それを最初から終いまでじーっと見つめている飼い主の図。


 そんな暇な人ったら、あまりいないと思うけれど、スコちゃんは毛づくろいがすむと、たいてい満足して寝てしまう。

 すると我慢できなくなった飼い主がまた、鼻キスとおなかもふもふをねだります。

 スコちゃん、おそらく触られるのはそこが汚れてるからだと思ってるな。


 脚からしっぽまでなーめなーめして、で、死んだように横たわっているのだわ。

 今日は初めて見たんだけれど、毛づくろいの途中で物音に耳を澄ますということがあって、ぴたっと動きが止まるんだけれど、顔を上げたとき、ちっちゃいピンクの舌がちょろっと出ている。

 きゃんわゆー! ってなってますますじーっと見つめちゃったわ。


 また死んだように横たわっているけれども、それはヤメテほしいな。

 今はもう、胸をえぐられることはないのだけれど、やっぱりそういう場面に出くわす事態を想像すると心音が滞ります。

 長生きしてね、スコちゃん。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る