第13話【訪問者】

「んっ、あ、朝か」


朝目が覚め、ベットから出ていつも通りリビングに行くべく部屋のドアノブに手をかけた瞬間。


「あ」


寝ぼけていた頭が一気に覚醒し、昨日の出来事を思い出す。


そうだ、昨日から椎名がこの家に住んでて昨日の夜、寝ている椎名の手を握って頭を撫でてしまって不意に目が覚めた椎名と一悶着あったんだった!

正直に言うと椎名の部屋に入ったときに下心が全くなかったわけではない。だってあんなに美人なんだぞ!?風呂上がりとかエロい目で見ないように必死だっわ!でも椎名のあの涙を見てからは本当に慰めてただけだからな!ってか俺は誰に言い訳してんだよ!取り敢えず土下座しかないか!?それしかないよな!?よし、覚悟決めろ俺!


俺は意を決して自分の部屋を出てリビングに入っる。


「あ、お、おはようございます」


ソファーに座ってテレビを見ていた椎名が俺がリビングに入ってきたのに気づき顔を真っ赤にしながら挨拶してくれる。おそらく夜のことを思い出したのだろう。


「あぁ、うん、おはよう」


おい!

何が、「あぁ、うん、おはよう」だ!ごめんなさいだろ!?


そんなことを考えている間も椎名は顔を真っ赤にしながらこちらをチラチラと見ている。


「あ、あの、椎名?」


「は、はひぃ!」


椎名の体がビクッとした。


おい、昨日の無口クールキャラはどこにいったんだよ!?

めっちゃ可愛いじゃねーか!


「も、申し訳ございませんでした!!!

椎名の部屋に入ったのには多少の下心がありましたが何も変なことはしてませんし、うなされている椎名を安心させようと行動していたのは本当なんです!」


俺は椎名の前まで行き土下座をきめる。


「あ、あの、顔を上げてください!

わかってます!

わかってますから!

逆に感謝しているんです。

久しぶりにしっかりと寝ることができました」


「え?」


俺は感謝していると言う言葉に少し困惑しながらゆっくりと顔を上げる。


そういわれると昨日より顔色が良くなっているような気もするな。


「なので、ありがとうございました」


「え、あ、うん。

どういたしまして?

それじゃあ、朝飯でも作るか。

食パンと目玉焼きぐらいでいいか?」


俺はこの変な空気を帰るべく話題を振る。


「はい、お願いします」


◆◇◆◇◆


「今日は何がする予定あるのか?」


朝食を食べ終え一息ついている時に俺は問いかけた。


「今日は一日中勉強します。

編入試験まであまり時間が無いので」


「そっか、昨日も言った通り何かわからないことがあればいつでも聞いてくれていいから」


「はい、わかりました」


今日の椎名は昨日に比べて心做しか表情が柔らかくなり、会話も続いている気がする。

昨日の暗い感じは寝不足の影響が大きかったのかな?


ピーンポーン!


「はいはい」


インターホンが鳴ったので受話器に映った人物を確認する。


「あ、澪?

おれおれ」


「私もいるよーん」


「オレオレ詐欺もワタシワタシ詐欺も間に合ってます」


俺はそう言ってきる。


ピーンポーン!


「なんだよ?」


「おい!

顔見えてんだろ!?

きるんじゃねーよ!」


「そうだよ、酷いよ!」


インターホンの前で大声で怒鳴ってる人達は俺の友達の真菅颯太と桜井遥である。

二人とも高校からの付き合いだが親友と呼んでいいほどいつもつるんでいる奴らだ。


「で、どうした?

今日なんも約束してないよな?」


「ちょっとお前が彼女と同棲を始めたって噂を聞いてな」


「そうそう、それで私達がその彼女さんをチェックしてあげようと思って!」


「何言ってんだお前達は?

まず彼女すら出来てないんだか?

それにもし本当に彼女が出来たとしてなんでお前らにチェックされなければいけないんだよ」


「嘘をつくな!

もうネタはあがってんだよ!

お前が可愛い女の子と一緒に家を出入りしているところを見たやつがいるんだよ!

俺達友達だろ?

チェックは言い過ぎとして紹介ぐらいしろよ!」


「そーだそーだ!」


「あの、どうかしたんですか?」


俺と颯太が大声で話しているのが不信に思ったのか椎名が声をかけてくる。


「おい!

今女の子の声が聞こえたぞ!?

やっぱりお前何か隠し」


俺は慌てて通信をきった。


「何でもないよ」


Prrrrr!


俺はポケットに入れていたスマホが鳴り出した。


どーせ颯太だろうな。


「椎名、ごめん。

友達に呼ばれたからちょっと行ってくるよ。

出来るだけ早く戻ってくるつもりだけど俺の帰りが遅いようなら昼ごはんは冷蔵庫のもの食べていいから」


俺が椎名にそう言って出かけようとすると不意に体が後ろに引っ張られた。


「お?」


よく見ると椎名が俺の服を摘んでいた。


「あ、すみません!」


椎名も無意識のうちにしていたようで慌てて手を離した。


恐らくだが、両親のことがあり、誰か一定以上の親しみのある人物が自分を置いてどこかに行くことに恐怖を感じているのだろう。


「椎名、大丈夫だ。

すぐに帰ってくるから勉強でもして待っててくれ」


俺はそう言って椎名の頭を軽く撫でてから玄関に向かう。


「い、いってらっしゃい」


「いってきます」

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