第7話【昼食】
「顔合わせも終わったし私はもう行くわ」
「え?
もう帰るの?」
「ええ、この後また仕事に戻らないと行けないの。
レイも椎名ちゃんもごめんね」
「そうなのですか。
忙しい中時間を作って頂き申し訳ないです」
「いいのよ、そんなこと気にしなくて。
さっきも言ったけど子供は大人に迷惑かけてなんぼなんだから。
レイ、ちょっとこっち来なさい」
「ん?」
俺は早苗さんに呼ばれて近づいていくと小さな声で「気づいてるかもしれないけど椎名ちゃん肌荒れたり、目の下に薄らクマが出来てるわ。やばそうになったら直ぐに連絡してきなさい」と言ってきたので俺は「わかった」と短く返事をする。
「じゃあ、バイバイ。
体には気をつけるのよ」
と言って早苗さんは帰っていった。
「俺達も昼飯と日用品の買い出しに行くか。
準備が出来たら言ってくれ」
「私はこのままでも大丈夫ですが、お金はどうすればいいですか?
私あまりお金もっていません」
「ああ、お金のことなら心配しなくていいよ。
母さんから椎名の身の回りの物を揃えるお金貰ってるから。
椎名のお小遣いも貰ってるから夜にで諸々の説明する時に渡すよ」
今渡すと全部自分のお小遣いで買うっていいかねないしね。
「あ、それと15時過ぎぐらいに引越し業者が椎名の荷物を持ってくる予定だから」
「はい、わかりました」
そうして家を出て家から十五分ほど歩いたところにあるショッピングモールに来た。
「お昼何食べたい?」
「零さんの好きなのでいいです」
「んー、じゃああのファミレスでいい?」
「はい、大丈夫です」
相変わらず表情はほとんど変わらず帰ってくる言葉も単調だ。
「いらっしゃいませ。
ご注文がお決まりしましたらそちらのボタンを押してお呼び下さい」
と言ってウエイトレスが一礼して下がっていく。
「決まったか?」
「はい、決まりました」
五分ほどメニュー表を見たあと椎名に確認をしてからボタンを押しウエイトレスを読んだ。
「お待たせしました」
「えーと、これと烏龍茶お願いします」
俺はオムライスビーフシチューソースの写真を指さして言う。
「私は、シーザーサラダ下さい」
「ん?
それだけでいいのか?
もっと頼んでもいいんだぞ?」
「いえ、これだけで大丈夫です。
あまりお腹すいていないので」
恐らくだがお腹すいていないのでは無く食欲がないのだろう。
あんなことがあって精神的にしんどい部分があるのはわかるけど、ちゃんと食べてくれないと心配になるな。
「お待たせしました。
こちらオムライスビーフシチューソース、烏龍茶、シーザーサラダでございます。
ごゆっくりどーぞ」
十分ほどそんなことを考えながらボッーとしているとウエイトレスが料理を持ってきてくれた。
「よし、食べるか。
いただきます」
「いただきます」
俺はそう言って食べ出すが、椎名の箸は全然進まないみたいだった。
さて、どーすっかなー。
「なぁ、椎名」
「は、はい」
椎名が少しビクッとながら返事をする。
「いや、別に怒るとかじゃないからそんなにビクつかなくても大丈夫だよ」
「ごめんなさい」
「食欲が出ないんだろ?」
「え?
あ、はい」
「大事な人を亡くしたショックで気持ちと体が受け付けないのは俺にもわかる」
「あなたに私の何がわかるんですか」
椎名の声が急に冷たくなった。
「ああ、わかるよ。
俺も小学生の時、母さんを亡くしているからね」
「え!?
でも、じゃあ琴音さんは」
「義理の母に当たるな」
「あの時は本当に今の椎名みたいな状態になったよ。
どんなに美味しそうな料理を見ても食欲がわかない。
食べても体が受け付けず直ぐに吐き出してしまった」
「、、、」
「でも、俺には父さんがいた。
父さんは自分も相当辛いはずなのに俺を励まして、俺のために会社に行って働いて、家に帰ってからも家事をして疲れているはずなのに何の文句も言わずに作り笑いを浮かべていよ。
だから俺もこの人のために生きないとって思って必死に飯を食べたよ。
吐きそうになっても口を塞いで無理矢理飲み込んで。
それから一月ぐらいが経ってだんだんと精神的に落ち着いてきて今みたいに普通に食べれるようになった」
「、、、」
「だから、椎名、お前は俺のために生きてくれ」
「!?」
椎名は驚いた表情をした三十秒ほど止まった後、完全に止まっていた箸を動かしシーザーサラダをゆっくり口に運んだ。
「ありがとう」
俺のその言葉にチラッとこちらを見たが直ぐにシーザーサラダに視線を戻し、ゆっくりと口に運んでいく。
俺はその光景を少し見てから自分の食事に戻った。
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