第6話【顔合わせ】

それから俺達は電車とタクシーを使い家まで帰った。


「ただいまーって誰もいないけどね」


「お、お邪魔します」


椎名は、小さな声でそう言っておずおずと家に入る。

そんなに警戒されなくても何もしないんだけどなぁー。


「今日からここが椎名の家にもなるんだ。

「お邪魔します」じゃなくて「ただいま」になるぞ?」


「はい」


俺に怒られたとでも思ったのか椎名は下を向いてしまった。


色々あって気持ちが落ち込んでるのはわかるけど何か難しいな。


「とりあえず上がってくれ。

それでここが椎名の部屋だ。

荷物を置いてからリビングに来てくれ」


俺はそう言って昨日掃除した物置になっていた空き部屋に案内する。


「はい、わかりました」


椎名はそう言って部屋の中に入っていった。


「椎名が準備出来るまでゆっくりするかー」


俺はそう呟いてリビングにあるソファーに寝転ぶ。


Prrrrrr!prrrrrr!


とソファーでゆっくりしていると突然携帯が鳴りだした。

俺は体を起こしテーブルの上に置いていた携帯を手に取り画面に表示されている名前を確認する。


「あ、沙苗さんかどうしたんだろう?」


俺はそう呟いてから通話ボタンを推し耳に当てる。


沙苗さんは母さんの妹さんで俺の叔母に当たる人で両親が海外にいる間の保護者役をやってくれている。


「はい、もしもし」


「あ、レイ、あんた椎名ちゃん迎えに行ったのよね?

もう家に帰ってる?」


「うん、家にいるよ」


「じゃあ、今から行くわね。

これからは椎名ちゃんの保護者役もやらないとだから顔合わせぐらいしとね〜」


「わかりました。

気をつけて来てください」


「はいよー」


そうして電話が切れた。


沙苗さんには夫と小学校に入ってすぐの子供がおり、沙苗さん自身も看護師というとても忙しい仕事をしているのでとても忙しい生活を送っている。それなのに俺が困っていると私はあなたの保護者役なんだから困ったら頼りなさいと優しく手を差し伸べてくれるとても優しい人だ。大人になったら親孝行プラス叔母孝行もしないといけないなと心の底から思っている。


「あの、荷物置き終わりました」


そう言って椎名がおずおずとリビングに入ってくる。


「お疲れさん。

もうすぐしたら日本での俺らの保護者役の沙苗さんって人が椎名に会いに来るからそれまでその辺でくつろいでおいて。

飲み物とか適当に冷蔵庫の中の飲んでもらっていいから」


「はい、わかりました」


そう言って冷蔵庫からお茶を取り出しコップに入れそれを持ってダイニングチェアに座る。

それからは永遠に無言!


気まず!

でも何話したらいいかわからん!


それから無言の時間が十分ほど経ったところでガチャ!と玄関が開く音がしてから「お邪魔します」と声がした。


「あ、早苗さんが来たみたいだな」


それからスタスタと廊下を歩く音がしてガチャとリビングのドアが開き早苗さんが入ってくる。


「早苗さん、いらっしゃい。

何か飲む?」


「おう、レイ。

お茶を頼むよ」


「はーい」


俺はそう言ってキッチンに行く。


あ、先に椎名の紹介をした方が良かったかな?

取り敢えず急いで持っていこう。


そう思い、素早くお茶の準備をしてリビングに戻る。

チラッとダイニンクテーブルの方を見ると二人は対面して座っており、ただ黙っていた。


なにこれ怖い!


「はい、お茶どうぞ」


「ありがとう。

さ、レイも早く座りなさい」


「う、うん」


俺はそう言って椎名の横に座る。


「あら、そっちに座るのね」


「いや、この状況で早苗さんの方に座ったら何かいじめてるみたいな光景になるじゃないですか」


「ま、それもそうね」


「じゃあまず、この子が新しく五花家の家族になった椎名だ。

で、こっちの女性はさっきも説明したが俺たちの叔母で、両親が海外にいる間の保護者役をしてくれている早苗さん。

はい、二人もご挨拶して」


「初めまして椎名です。

これからいろいろとご迷惑をおかけしますがどうかよろしくお願いします」


名前だけか。

まあ、苗字のことは前のとどっちを使えばいいのかとかいろいろ悩むこともあるだろうし仕方ないことか。


「こちらこそはじめまして。

三条早苗です。

仕事や子供のこともあるのであまり顔を出せませんが何か困ったことがあればいつでも呼んでください。

すぐに飛んできます。

迷惑なんていっぱいかけていいんですよ。

あなたは子供で私はその保護者役なんだから」


「はい、ありがとうございます」


なんかお見合いみたいだな。


「なぁ、椎名はともかくとして早苗さんがなんでそんなに緊張してんの?」


「だってだって!

見てこの可愛い子!

うわぁー、その辺のアイドルより普通に可愛いわよ!

こんな子が目の前にいたら緊張しても仕方ないと私は思うの!」


「まあ、言わんとしてることはわかるけど、早苗さんがそんな感じだと椎名も気を使ってしまうだろ?」


椎名は何も言わずに俺達の会話を聞いているが気のせいか頬が少し赤くなっている気もする。


「あ、そうね。

ゴホン!

改めましてよろしくね、椎名ちゃん」


「はい、よろしくお願いします」

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