第5話【待ち時間】

父さんから突然義妹が出来たと告げられてから三日後の朝10時、俺は母さんに言われた通り空港に椎名を迎えに来ていた。


「着いたら空港内にある時計台の所にいてくれって母さんに伝えてもらったけど、ちゃんといるかな?」


俺は時計台の下で周りを見渡す。


「まだ、来てないみたいだな。

もう到着時刻を過ぎてるからこの空港内にはいると思うんだけど探しに行った方がいいかな?

だけど、行き違いになっても困るからここで少し待っとくか」


俺は、とりあえず十五分ほどここで待っていることにして、母さんから何か連絡が来てないか携帯で確認をする。


「何も来てないな」


母さんなら何も連絡が来ていたいので予定の便でこっちに来たのは間違いないだろう。


俺は人間観察をして暇を潰そうと人混みに目を向ける。

人間観察は結構楽しいかったり勉強になったりする。

例えば、今空港業務スタッフの女性に道を聞いているあの青年、優しそうな好青年顔が赤くなっている。このことからこの青年は、むっつりスケベ、人見知り、シンプルに迷子になって内心結構テンパってるのでそれが顔に出て顔が赤くなっているの3パターンが考えられる。

そして、次にその青年の目を見る。

その青年は、説明されているあいだチラチラと空港業務スタッフの女性の胸を見ている。この2つのことを合わせるとあの青年はただのむっつりスケベということになる。

まあ、今の例は少しアレなのでもう1つ例を出そう。

次はベンチに腰掛けている三人組の女子に目をやる。

三人で話すというのは二人はで話す時に比べてとても難易度が上がる。なので、三人で話していて上手くいってるように見える時はほぼ百パーセントの確率で一人が気を使っている状態になる。この1人の気遣いがなければその三人組はだんだんと疎遠になっていくことだろう。

俺はその三人組から気を使っている一人を探し、どのように会話を上手く回しているかなどを学んだりもする。


「あの、すみません」


俺がそんなことを考えながら人間観察をしていると横から知らない女の人の声で呼ばれた。


「はい?」


俺が振り向くとそこには一人の女性が立っていた。


「あの、五花 零さんで間違いないでしょうか?」


女性は殆ど表情を変えないまま、まるでロボットかのように聞いてきた。


「あ、君が椎名?」


名前の後に“さん”か“ちゃん”を付けるべきかな?と思ったが、これから家族になるのだし、家族に向かって“さん”や“ちゃん”を付けるのはおかしいと思い呼び捨てで呼んだ。


この場所で、荷物を持っていて、俺の名前を知ってる。

そして、この子の顔は母さんが言っていたように肌は少し荒れていて目の下にクマが出来てはいるがとても可愛く母さんが送ってきた写真の子に間違いないだろう。


「はい、これからよろしくお願いします」


「えーと、うん。

こちらこそよろしくね。

とりあえず荷物を置きに家に戻ろうか。

それで、夕方頃に引越し業者が来るらしいからそれまでに日用品とかの必要なものを買いに行こうか」


俺は、簡単にこの後の予定を説明した。


「はい」


本当に返事が単調で感情が一切感じられないな。


「あ、カバン持つよ」


俺は、彼女が持っている大きな鞄とキャリーケースに目をやり手を出しながら言う。


「いえ、そこまで迷惑をかける訳にはいきません」


「何言ってんだよ。

まだ認めきれないかも知れないが、これから俺達は家族で一緒に住むんだ。

あんまり気を使いすぎるとしんどくなるぞっと」


俺はそう言って椎名が持っている大きな鞄をひったくるようなかたちで取った。


「よし、行くぞ」


「はい、ありがとうございます」


その感謝の言葉とは裏腹に椎名の表情は少し暗くなったように見えた。


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