第12話
酒井くんの目を見ると、ばちんと視線が当たった。
その目は、朝よりも深い黒をしていた。
「俺も話があるんだ」
酒井くんは反対に振り返って、またどこかを眺め始めてしまった。
「俺、廃墟が好きなんだよね」
「え?」
「いいから聞いて」
あまりに素っ頓狂な返しに疑問を滲ませると、澄んだ低い声で制され、私は押し黙った。
「ある日さ、山奥に廃校があるって聞いて。でもそこに行くまでに山道を3時間くらい登らなきゃいけないから、今はもう誰も近づいかないみたいなの。でも廃墟好きとしてはやっぱり行きたいよね、って思って、俺は計画立てて準備して、そこの廃校に訪れたわけ。
それがまあ古い学校でさ、床も所々抜けてるし、ドアも取れてたり壊れかけだったり。もう全体的にボロボロ。
なのになんだか悪い気が漂ってなくて。
それで入ってみたら、人がわんさかいるの。学生達が楽しそうに。
きっと皆気づいてないんだろうなぁ。自分の置かれた環境。
そこで俺、何でだろう、楽しそう、って思っちゃって。ある教室になんとなーく座ってたら、隣の子が話しかけてくれて。本当は一日で帰ろうと思ってたんだけど、こうなっちゃった以上もう少し居ようかな、って気になって。まあそれが結果的に悪い方向に傾いちゃったんだけど。
扶実ちゃんが俺の事怪しんでずっと監視?してたのは気づいてたよ。まあ離れるきっかけになるかな、って思って少し泳がせてた。ごめんね?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます