第8話



私は授業中も休み時間も、酒井くんの奥の壁をぼーっと見ている振りをして観察し続けた。


休み時間に教室を出ると分かれば、少し間を置いて後ろから付いて行った。


行き先は大概他クラスの教室だったが、気になったのは酒井くんがそこののドアをやけに重そうに開けることだけだった。


休み時間の観察で分かったのはそれのみ。


次に始めたのが、酒井くんは本当に人の物に触らないのか。


授業中も休み時間も、バレないよう注意深く観察した。


しかし結局観察している間、酒井くんが人の物に触るところを目撃することはなかった。



こうして観察していると、とある事に気がついた。


それは、酒井くんのあの変な歩き方に規則性、決まり事があるということだ。


ある所を酒井くんは絶対に歩かない、または跳ぶし、ある所を必ず歩く。


これが何を意味するのか、私の頭の中は一日中それで一杯だったが、私に答えを出すことはできなかった。


小学生がよくするような、縁石のみを渡って帰るアレとか、横断歩道は白いところしか歩いちゃいけないアレとかに似ているような気もしてきて、結句それで無理矢理自分を納得させたのだった。



そして、酒井くんとぶつかった時のあの奇妙な感覚の正体も探った。


私はそれの為に何か事ある毎に酒井くんとぶつかろうとした。


しかし酒井くんは全身に目が付いているかのように器用に避け続け、あれ以来ぶつかることは出来なかった。


ぶつかること事体は出来なかったものの、これはこれで収穫があった。


あまりに器用に避け過ぎている…つまり、酒井くんはぶつかることに妙に警戒しているという事だ。


きっと何かあるのだ。私の知り得ない何かが。



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