第7話



今日は酒井くんの誕生日らしい。


根強いファンの女の子達がプレゼントを持って酒井くんの席に群がっていた。


「えー、なんで受け取ってよぅ」

「そうだよ何で受け取ってくれないの?」

「お礼とかいらないから、ね、ね!」

「ちょ、ま、そういうのじゃなくて、」


酒井くんは狼狽している。何か信念があるのか知らないが、受け取った方が面倒臭くないと思うよそれは。


「わかった、わかったから!ロッカーにでも入れておいて」

「ありがとーう!」

「一生懸命選んだから使ってね!」


酒井くんは諦めたようにそう言って、女子達は酒井くんのロッカーにプレゼントを入れると嬉しそうに去っていった。


しかし、なぜ手で受け取らなかったのだろう。わざわざロッカーに入れさせなくても。



そこで私は何か既視感を覚えた。


そうだ。私は酒井くんが人の物に触るところを一度も見たことがない。


初日にシャーペンを貸そうと言った時から。


先生に雑用を頼まれた時も何か理由をつけて断り、女子に飴を差し出されても慌てて手を引っ込めて断り、周りの生徒が何か物を落としても口で心配するだけ。



初日から変な行動ばかりするこの転校生。酒井くんの肘とぶつかった時に感じた違和感。人の物に触らないこと。


違和感は気のせいかもしれないし、物に触らないのもただの潔癖症かもしれない。


けれど、私はそれだけではない何かを感じていた。


当てのない直感かもしれない。


それでも言いようのない不安感が襲ってくるのを感じる。


次の日から私は酒井くんの観察を始めた。



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