第6話


「扶実ちゃん?扶実ちゃん?」


そこでやっと心配されていたことを思い出す。


「あ、ごめん、うん、なんでもない」

「本当?」

「うん、大丈夫」

「そう、ならいいんだけど…」


酒井くんが椅子を起こしてくれた。


私は自分で立ち上がり、椅子に座った。


「なんか虫でもいた?」

「あ、うん、ハエかな?びっくりしちゃった」


思わず酒井くんの言葉に乗ってしまった。


……今の、なんだったんだろう……


始めは肘同士がぶつかったように感じた。


でもそんなの本当に一瞬で、その後肘が何かに呑み込まれながら無くなっていくような感覚に陥った。肘の感覚がなくなるような感覚もあった。


痛みはない。


でも私の肘は今ちゃんとここにあるし、感覚もある。自分の意思で、きちんと動く。


酒井くんの肘を盗み見た。当たったのはきっとあそこだ。


しかし酒井くんは平気そうで、いつもと何ら変わりはない。



酒井くんの肘が私の肘を呑み込んだ……?

そんな考えがふと脳裏を掠める。


いやまさか。


なんだよそれ。未確認生物かよ。妖怪かよ。あやかしかよ。ないない。


私はそれ以上考えるのを止めて、いつの間にか進んでいた板書を慌てて取り始めた。



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