第5話



「扶実ちゃん、教科書見せて」


3日が経つ頃にはその言葉はもう恒例行事になっていて、この言葉を発する頃にはそれが当たり前かのように、酒井くんはぴったり私の机に自分の机をくっつけている。


「はいはい」


そう言いながらいつものように手を伸ばし、酒井くん側に教科書を広げた時、


ーーヌッ…


右肘に妙な感覚が走り、私は飛び退いた。


ガタガタ、椅子が勢いよく倒れる音がする。


私は思いっきり床に尻餅をついた。お尻に打撲独特の痛みが走る。


「扶実ちゃん!?大丈夫!?」


血相を変えた酒井くんが近寄る。皆の視線が集まっているのも感じた。


ーーでも今はそれどころじゃない。


私は無意識に右肘を押さえていた左手で、何度も確かめるように右肘を触る。


自分の肘はきちんとそこにあった。きちんと今までの形をしていた。


肘を曲げ伸ばししてみる。きちんと動く。違和感もない。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る