第27話 銀の実

 霜が朝を白く染める頃、林は銀の実を求める人々の姿で賑わいます。銀の実は星の瞬きが凍ったものと言われ、たいそう珍しく、朝陽のひとすじで消えてしまうので、みな厚着をして夜明け前に出かけるのです。

 ある若妻が、木の葉の陰に銀の実を見つけました。これを売れば、夫の薬代が払える。彼女は布張りの小箱に銀の実をしまい、家に戻りました。

「お帰り。早く火に当たりなよ」

「それより、ね、見て」

 細く開いた小箱の中で光が唄うさまに、二人は出会ったばかりの頃を思い出しました。時間を忘れて踊った夜、互いの手の熱さも。

「売るなんてとんでもないわね」

 小箱を夫に託し、妻は仕事に出かけました。


 銀の実は生涯、夫婦の支えだったそうです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る