第22話 冬将軍

 冬将軍が戦を始めると聞いて、村人は震え上がりました。将軍は獅子奮迅の戦いぶりを誇る歴戦の将で、周辺国からは苛烈と恐れられていましたが、容赦のない戦のために食料や人手の供出を強いられる町村の人々にとっても、頼もしさより恐ろしさが勝る人物だったのです。

 白髪と白い髭、氷の眼差し。そして蓄えを根こそぎ奪ってゆく非情さからついた渾名が冬将軍、というわけです。本物の冬の方がずっとまし、と人々の思いは一致していました。

 抗えぬ暴虐は、天災だと思って耐えるしかない。食料の袋が馬車に積まれ、馬や牛が繋がれて戦地に送られるさまを、民は唇を噛んで見送るばかり。

 冬将軍が守るべき人々の心は、すっかり凍てついておりました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る