第18話 毛糸

 真夏だというのに、姉は汗を浮かべながら毛糸のマフラーを編んでいた。赤、橙、黄、紫。暖色系のミックス毛糸は、凶悪な予想最高気温の分布図に似ていて、見ているだけで汗が滲む。

「もっと涼しくなってから編めばいいのに」

「不器用だから、それじゃ間に合わないの」

 そんなことを言うわりに、姉は手芸を趣味にしていた。人に贈り物を作ることもある。このマフラーもきっと、誰かへのプレゼントだ。

「初めてマフラーを編んだ時は、時間がかかってかかって……少し巧くなるとそれまでの粗が目に付くものだから、そのたびに一からやり直して、結局何のために編んでたんだかわかんなくなって、放り投げたのよね。目的は大事」

 深いんだか浅いんだか。

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