第6話 当日券

『当日券あります』

 告知の甲斐なく、いっこうに減らないチケットの束を見遣り、空想に耽る。


 重く曇る空に雷光が弾けた。場違いに優美な宇宙船を取り巻く人々が、乗せてくれと悲鳴をあげ、懇願している。彼らは宇宙船のチケットが手に入らず、滅亡する地球に取り残される。

 無情なフェンスの向こうで、宇宙船が爆音とともに離陸する。恐ろしいほどに赤い炎は、まるでそれこそが世界の終わりをもたらすかのよう。

 宇宙船が去り、人々の怒りはすすり泣きに変わる。宇宙船はありとあらゆるものを積んだ。自分たち以外の何もかも。ここにはもう何もない――力なき人間の他には。


 このチケットで私は救われるんだけど。聴衆なきギターの弦が切なく震える。

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