第4話 恋する

 灯台には毎日、船乗りの帰りを待つ人々がやって来ます。

 家族や婚約者、隣人、教え子、腐れ縁。さまざまな人が大海原の向こうの誰かを思って灯台に足を運び、持ち寄った油を大松明の油壺に足すのでした。陸(おか)で待つ者にできることはわずかなのです。

 ある日、見目麗しい若者が灯台を訪れました。浜に不慣れな足取りや装いから、彼が余所者であるのは明らかでしたが、油分けを拒む理由はありません。

「この油を燃せば、あの人はきっと僕を見つけるでしょう」

 青年が携えた魚油の生臭さは馴染みのものでしたが、声に滲んだ並ならぬ情念に顔を上げた灯台守は、彼の首に、腕に、鱗が煌めくのを見ました。

 ――人魚!

 驚愕は潮風に攫われ、誰にも届きません。

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