11.空から降ってきた人を助けよう!

 ウニキャンに急いで戻って来て自転車を片付けると大樹の元へと走らせた。現場は対向二車線ぐらいの幅がある山道なのでしばらく停車していても大丈夫だろう。到着してコットを組み立てる。コットとは組み立て式の簡易ベッドの事だ。形は担架に短い脚が生えた感じである。寝た感じはハンモックみたいで意外と寝心地は良い。アウトドアキャンプでは地面の上に直接寝ると地面の冷気が伝わって底冷えするのであると重宝する。


 まず割れて役に立たないヘルメットを外す。脳震盪の時は揺すったりすると不味いので何事もそっとやる。ヘルメットを外した時に纏めていた髪が解けて広がる。髪の色は赤毛色だ。人間基準に考えるなら女性かもしれない。胸も大きいし。


 そっと彼女を持ち上げてウニキャンの側に設置したコットに寝かせて毛布を掛けておく。箒はずっと手から離さないのでそのままだ。ナツは彼女の横に伏せて見守る様にじっと見ている。


 暫くやることも無いのでコーヒーでも飲むかと準備を始める。キャンプテーブルとキャンプチェアを用意してコーヒーセットをキャンピングカーの中から持って来てテーブルにセットする。コーヒーケトルに水を入れて携帯用ガスバーナーにでお湯を沸かす。ガスバーナーの炎は外だと見え難いので調整が難しいのが難点である。


 コーヒーをドリップしてコーヒーを飲んで見守っているとナツが「わんっ!」と吠えた。彼女が目を覚ましたようで身じろぎする。俺は急いで彼女の側に行ってみる。


 暫くして彼女が目を開くとじっと虚空を見つめていたいた。瞳の色はグリーンがかった蒼。目が猫目だよ。やっぱり人族では無いみたいだ。


 やがて俺の方を見てハッとして彼女は身体を起こした。


「大丈夫か?」

「ええ、なんとか。私はどれぐらい気を失っていました?」

「正確には分からないがそんなに長くは無いと思う」

 彼女は自分の体の状態を探る様にペタペタと触っていたが、若干驚いているがなんとも無い様だ。

「介抱して下さってありがとうございます」

「ちょうど通りかかったところなので気にしないで下さい」

「ところでどうしてあの大樹のところで倒れていたんだ?」

 俺は気になっていたことを尋ねてみた。

「実は空を飛んでいたところ、珍しい乗り物に乗っている人族を見かけまして、うっかりよそ見をしていたら何かにぶつかって気が付いたら寝かされていました」


 人族?て、もしかして俺のことかな?俺はウニキャンの中に入って自転車を持って戻ってきた。

「もしかしてこの自転車のことか?」

「そうです!それです!!ジテンシャ?と言うのですか……」

 実はこの世界では自転車は珍しい。馬車から始まる四輪の乗り物が発達して、魔法が日常的にあるものだから体のバランスで二輪車に乗ろうと言う発想がなかったらしい。あったとしても常に魔力を使ってバランスを取るのは燃費が悪いということで考える前に却下される案件だったみたいだ。

 俺にも責任の一旦はある感じだけれど、ここは棚に置いといて。


「しかし、よそ見は危ないからこれからは絶対にしては駄目だよ」

「はい、実は姉にもよく叱られます……」

 彼女はドジっ子なのかもしれないな。


「俺はヒロシ・ヤマノです。最近この世界に来たばかりの人族です」

「それで、そちらの魔導車から神器の波動を感じるんですね〜。私はセイレーンの魔女、四姉妹の三女ペイシノエーと申します。種族は魔女族です」


 なんと魔女!地球だと魔女と言えば人間の女性魔法使いだけれど魔女族と言う種族があるのか!!異世界は広いね〜。


「とりあえずコーヒーでも飲みます?」

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