10.サイクリングに出かけよう!

 そうだ!サイクリングに出かけよう!


 ドワーフの造船港町の周囲はちょっとしたアップダウンのある丘陵地帯が連なっている。魔導車の通行量も少ないのでサイクリングに良さそうだと思ったんだよね。グラベルロードなら未舗装路も問題なく走れるのでナツと一緒にポタリングするのに丁度良いかと思ったのだ。


 朝の用事を済ませるとウニキャンで丘陵地帯に向かう。市街地を抜けて暫くすると直ぐ目の前に丘陵地帯が見えて来る。緩い丘を登って辿り着いた丘の上の街中に駐車場を見つけて止める。ここからは自転車だ。


 サイクリング向けのカジュアルな服装に着替える。アンダーウェアはサイクリング用の尻の所にパッドが入っているものを履く。パッドが入っているので長時間自転車に乗っても尻が痛くならない便利グッズがあるのだ。


 補給食を準備しておく。長時間のサイクリングになると補給食がないと途中でハンガーノックになって動けなくなると非常に辛いからな。市場で仕入れたパンにジャムや小豆餡(地球から持ち込んだもの)を入れて簡易的なジャムパンとアンパンを作る。直ぐにエネルギーになるジェルタイプの補給食にエナジー系のドリンクと水。ナツのおやつと水も忘れずに入れておく。工具類も持っていくので大きめのサドルバッグに詰め込む。大きめのサドルバッグを使うとバックパックを背負わなくても良くなるので長時間走る時には重宝するのだ。


 自転車を軽くチェックして外に出す。ヘルメットを被ってアイウェアを掛ける。グローブを嵌めて準備が整えば出発だ。自転車に跨ってフラットペダルに足を乗せてスッと漕ぎ出すと同時にシートに尻を乗せる。スポーツライディングするなら足を完全に固定出来るビンディングペダルが便利なんだが、日本の都市部では信号待ちや渋滞で足を頻繁にペダルから外して足を地面に付ける頻度が高いのでペダルはフラットペダルにしたのだ。そのおかげで立ちごけの洗礼は経験しないで済んでいる。三十路後半になって立ちごけは恥ずかしいし実際に立ちごけしているのを見たことあるけれど痛そうだったしな。


 駐車場から市外の方へと向かう。ナツがトコトコと付いてくる。直ぐに両側には街路樹が植わっていて景色も良いなか綺麗な未舗装な小道に入っていく。最初から緩い上り坂だ、タイムを測っているわけではないのでゆっくりと登る。ナツは元気そうに前に出てトコトコ走っては茂みの匂いを嗅いだりしている。


 グラベルロード用のハンドルはロードレーサー用のハンドルと比べるとドロップ部分が外側にハの字に広がっていて浅い前傾姿勢になり悪路でも握りやすい。


 左手は斜面になっていて蔦やら草が茂っている。右側は崖になっているが石垣の塀があるが樹が茂っていて緑の中をゆるく曲がりくねった道を走って行く。段々と高度が上がっているので息が乱れてくる。ここまで来ると緑のトンネルの中を木漏れ日を頼りに走る感じになってくる。苔とかあるので滑らないように気を付けよう。時々、湧き水があるのか地面が濡れていたりするのも要注意なんだよな。


 全く他の人とは出会わなかったのでナツを自由にさせてやっている。トレッキングルートみたいな場所なので散歩している人でもいるかと思ったが通行人も見かけなかった。


 半ば山道をくねくねと走っていると、やっと広い場所に出たので休憩。最初に丘だと言ったがあれは間違いだ。立派な山道だった。ドリンクを飲んで一息つく。ナツ用の折り畳みの水皿を用意して水をあげる。ナツは猛然と水を飲み始めた。補給食のパンも食べておく。ジェルタイプの補給食ぐらいはなんとか飲めたけれどプロの自転車選手みたいに走りながら食べれると良いのだが坂道だと難しかったな。


 落ち着いた所で近くの小山にナツと一緒に登ってみる。ナツは張り切って飛ぶように登っていく。流石に付いていくのは無理なので自分のペースで登って行く。頂上にたどり着いて周囲を見渡してみると港町全景が見渡せる。造船所のクレーンもよく見える。水平線まで見れてここまで登ってきて良かったなと思う。これがなかったら散々なサイクリングだったが、最後の収穫で帳尻があった気分だ。


 十分に休憩したので帰ることにした。帰りは下り道なので登りよりかは楽だがスピードを出し過ぎてコーナーを曲がれないと崖に落ちたりして洒落にならないので慎重に下っていく。ディスクブレーキなので下りの時は安心して下れるのが助かる。疲れて握力が落ちている時に少ない力で確実にブレーキが効くのは助かるのだ。変速機も電動なので握力が落ちていても確実に変速出来ているのは機材の進歩の恩恵だ。


 もうすぐ麓に着くという所で「ドン!」と大きな音が鳴り響いた。


 何だ!何がどうなっている!?


 一旦自転車を停めて周囲を見渡したが周りは雑木林なので良くわからない。ナツが「わんっ!」と吠えると走っていくので付いていく。


 道の側にある大きな木がある方に向かって走って行っているようだ。自転車を置いて駆け寄ると大樹の側に誰かが倒れている。ナツはその倒れている者の側にいた。なんか以前にも似たようなパターンが……。とデジャブを感じるが近寄ってみる。


 パンツルックでゴーグルを付けた人物が倒れている。手には箒を握りしめている。倒れた時にも手放さなかったようだ。耳は尖っているがエルフのように横にではなくて上の方に尖っている。一見人間に見えなくもないが違う種族みたいだ。


 頭にはパックリと割れたヘルメットを被っている。樹木の折れた枝が周囲に散らばっているところを見ると上から落ちてきたのか服とかが破れて全身傷だらけだ。呼吸はしているのでまだ死んではいない。気を失っているのは確かだ。


 とりあえずナツを見張りに残してウニキャンを取りに行った。ウニキャンの側なら自然に治るしな。

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