17 根来警部の闘志
明日は休みだ。根来は車を出して、五色村に向かっていた。自宅に住んでいる娘のすみれには、今日は帰らないかもしれないと伝えておいた。
山道を猛スピードで走って行く。この山の裏に五色村がある。途中の道で、地元の暴走族を追い抜いて、五色村で家が密集している彼岸寺あたりに急いだ。暴れん坊だった時の血が騒ぐ。不良だったわけではない。鬼刑事だった頃の話だ。無茶苦茶だ、とも言われた。そうかもしれない。
(おそらく、羽黒はあの民宿に泊まっていることだろう)
根来は、民宿の裏側に車を停めると、民宿に入っていった。
突然、現れた根来に、ジャズの親父は驚いて目を見開いた。がっしりとした肩、鬼のように獰猛で、虎のように激しい男。そんな八年前のイメージが込み上げてきて、ジャズの親父が腰を抜かしたようだった。
「お久しぶりですね」
「根来警部っ、突然、どうされました」
何か、あからさまに怯えているので、根来は困惑した。
俺って、そんな悪いことしたっけ、仕事一筋で捜査に夢中だっただけなのだが……。鬼根来か。あの頃に、俺はすみれに頭をポカンとやられたんだったな。
根来はなんだか憐れな気分になって、ジャズの親父(店主)を抱きかかると、ソファーに戻した。
「大丈夫ですか」
「い、いやー、つい驚いてしまって……」
根来は足元のプードルを抱きかかえると、
「羽黒いますかね。たぶん、こちらにいると思うんですが……」
「いますいます!」
なんだか、ジャズの親父の反応が、根来の意外にデリケートな心をずたずたにしていくのだった。
根来は階段を登っていって、羽黒の部屋に向かった。ノックする。
「どなたですか?」
「俺だ」
すぐにドアが開いた。祐介はちょっと意外そうな顔をして根来を見ている。
「なんだよ、俺は見世物じゃねえぞ」
「まさか来て頂けるとは……」
「何が来て頂けるとは、だよ。俺は事件に関係あるならどこへでも行くんだよ」
幽霊話に逃げ腰だったくせに……。祐介はそんなことは思っても言わなかった。
「どうぞどうぞ」
「懐かしいなぁ。俺も捜査の時、何度もここに泊まったんだよ」
「ここに泊まったんですか。今、お茶を淹れますね」
「おお、悪いね」
根来は濃いめが好きだろうと思って、祐介は渋くお茶を淹れた。
「そんなに渋くしなくていいんだよ。それでだな、ここに事件の資料、持ってきたから」
根来が鞄から書類を出すと、祐介は爽やかに笑った。
「ありがとうございます。これで事件も解決ですね」
「そんな簡単じゃねえだろ。俺も相当粘ったんだがな。どうもよく分からん事件だった」
根来はじっくりと渋い煎茶を味わっている。この何が美味いのか、よく分からんのが良いんだ、とコーヒーを飲んでいる時と同じ変な理屈をこね始めた。
「それで月菜さんがお母さんの霊を口寄せしようとしているわけですけど」
「月菜……あの時の女の子か。確か二人いたな」
「現場にいたのが日菜さんです」
「そうだったな……」
根来はちょっと無言になって、煎茶を握りしめている。やはり事件が解けなかったのが悔しいらしい。目の中で、悲しみと共に鋭さが光る。
「また暴れまわりませんか? この村で……」
「……当たり前だ」
根来はそう言って、闘志を剥き出しにした。必ず逮捕しなければならない犯人だ。母親が殺され、娘たちが受けたショックは計り知れなかったのだ。
根来はふと冷静になると、祐介の方を向いて、
「その、暴れまわるっていうのやめろよ……捜査なんだからさ」
根来は、ジャズの店主の反応が気になって仕方ないのであった……。
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