12 密室の謎
鼻筋の通った、切れ長な美しい瞳の、前髪がサラッサラッな美青年である羽黒祐介は、そこでぴたりと息を止めた。そして、事件の記憶を、昨日のことのように思い出して震えている信也をじっと見つめた。
「すると、日菜さんは事件のショックで記憶を失ってしまったのですか」
「そうです。そして、事件当時の記憶は今でも戻っていないのです」
祐介は頷いた。
「ところで奇妙なことに、母が殺された岩屋には内側から鍵がかけられていました。そして、その室内には、母の遺体と日菜の二人しか残されていなかったのです……」
羽黒祐介は、その言葉に少しばかり驚きの顔を見せた。
「密室殺人だったというのですか……」
「そうです……。常識的に考えて、当時十一歳の日菜は犯人ではないということになりました。だとしたら、犯人は誰なのか、またどうやってあの岩屋から脱出を果たしたのか」
そう言ってから、信也は少し困ったような顔をした。
「羽黒さん。私は、母が悪霊を口寄せしてしまって、そのせいで命を奪われてしまったというような、非科学的なことを本気で信じているわけではありませんが……。
しかし、母の口寄せには、どこか真に迫った生々しさがありました。霊が乗り移った時、母はそれまでの誰とも違う声を出して、その言葉には、悲壮と苦しみが心の底から込み上げてくるような、深く重い響きがありました。その母が、口寄せの修行の為に岩屋にこもって、あのような真っ赤な血にまみれた姿となって発見されたのです。その姿を目の当たりにした時、私は、母が悪霊に殺されたのだと、心のどこか奥底で信じずにはいられませんでした……」
「そうですか。お母様は菊江さんと仰られましたね」
「ええ、御巫菊江です」
信也は少し頷くと、また何かを考えているようにぼんやりとした。
「その時に、集まっていたメンバーが今回、再び集められたのですよね」
「え、ええ……そうです。この時、村にいた人間は村の人間の他に胡麻博士などがいました。胡麻博士は、母の口寄せを取材しようとしていたのです」
「そうですか。事件の凶器はどのようなものでしたか」
「出刃包丁でした。母の枕元に落ちていたそうです……」
「そうですか。詳しいことは群馬県警の知り合いの刑事に尋ねてみますね」
「群馬県警にお知り合いが?」
信也のちょっとばかり驚いた声に、
「ええ、
信也はその名前を聞いて、ぱっと顔を明るくして、
「その方ですよ。事件を担当したのは。ええ、今はどんな方か知りませんが、八年前はすごい馬力で、なんだかものすごい剣幕で、しらみ潰しに地道な捜査を続けていました」
祐介はちょっとおかしそうに、それでも笑いを抑えると、
「この前、俺には足しかないんだよ、と言ってました。あの捜査術は昔から変わっていないのですね」
祐介はなんだか、やけに根来に会いたい気がした……。
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