飴玉と微笑み

あおみどろ

あの日の出来事

暑い夏の日だった。


気温が35℃を超える猛暑日だった。


こんな暑い日に散歩をしようと提案する君も、

それを良しとした僕も、きっとどうかしてる。


電話越しの相手に頭を下げるサラリーマン。


日傘を差して目を細める女の人。


スマホを見て苛立たしげに脚を揺する男の人。


よく見る光景を横目に君の背中を追いかける。


口角を少しだけ上げて、機嫌がいいという雰囲気を撒き散らしながら少し弾んだ動きで歩道を歩く。


子供じみた君の行動に感化されて、僕も少し浮き足立ってきたものの、やはり暑さには勝てそうもない。


しばらくすると駄菓子屋が見えてきて、君はそこで二つ飴を買って僕に手渡してきた。


甘くて、すこしザラザラしていた。


透き通った水色の飴が君にぴったりだと思ったのをよく覚えている。


海沿いまで歩いていったのはちょっと、いや、かなり凄いなと今でも思う。


きっと、もうそんな気力も体力も無い。


砂浜に落ちていた枝を拾って海に投げたり、貝殻を拾い集めたり。


会話をすることも無く、それぞれが好きなことをしていた。


夕日が沈むまで、ずっと。


迎えに来てくれるから、ここでお別れだね。


そう言って少し寂しげに微笑んだ君に、何か一言でも声をかければよかった。


顔も見ずに手を振るなんてことをしなければよかった。


君は死んだ。


彼女はもういない。


彼女はきっと殺されたのだ。


この世界に、彼女を取り巻く環境に。


釣り人に見つけられたと聞いた。


眠るように死んでいたと聞いた。


わざわざ薬を飲んで死んだと聞いた。


僕の手元には、捨て忘れた二人分の飴玉の包装袋だけが残った。


それに気づいてすぐ、自販機の横にあるゴミ箱に捨てた。


マナーなんてどうでもいい。


ある暑い夏の日のことだった。


やけに太陽が眩しく感じる日だった。


君の八年先を生きる僕は、少しでも大人になれたのだろうか。


白いワンピースが脳裏に浮かんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

飴玉と微笑み あおみどろ @aomidoro

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ