第21話 理想と現実
「皆、お願い。間に合って!」
〈万が一の事もあります。打てる手は全て打っておきましょうか〉
「打てる手って?」
〈それは勿論〉
「あ、錬成」
〈That's Right〉
「でも一体、何を錬成したらのいいか」
〈時を巻き戻す時計とかどうでしょう?〉
「時を巻き戻す時計?」
〈そう!時かけものは何世代にも渡って親しまれてきた名作ネタ!タイムスリップ然り、タイムリープ然り、タイムパラドックス然り!〉
「いや、タイムパラドックスはやっちゃ駄目なやつだろ!私でもそれぐらい分かるわ!」
〈この世界では多少のバタフライ・エフェクトくらい問題ないでしょう〉
「なんでよ!」
〈奈留。考えても見てください。我々は今現在を現在進行形で進んでいます。ですが先の事はまだ確定していません。ならばフィナ嬢の両親がもし殺されていたとしても観測していない時点でまだ干渉は可能なのです。なので今、ここで時を巻き戻す方法を確率する事は急務だと言えます〉
「つまり、決まっていない未来を変更するのは問題ないって事ね」
〈随分と理解が早いですね。驚きです〉
「これでも大学通ってたのよ!シュレディンガーの猫の法則でしょ!観測しなければ結果は分からないってね!」
〈全く違います〉
「ええ??」
〈そもそも、シュレーディンガーの猫とは「直感的には意味不明ですが整合性はあるゆえに納得できる量子論」の問題点をついた唯の批判する為の思考実験です。
1時間後に箱の中に、生きている猫と死んでいる猫が重なり合う状態がいるという全くバカげた状態がある筈がないが絶対に存在しないとも断定できない状態。
つまり、未解決の問題を扱った例え話と言うやつですね〉
「え?ごめん。全然分かんなかった」
〈ハァ。前言撤回です。奈留の理解力の無さに驚きです。いえ、ある意味これは前言を肯定しているのでしょうか?〉
「普通の一般女子大生はそんなに量子力学なんて詳しくないよ!」
〈まあ、奈留の頭が悪かろうがお花畑だろうが、どうでもいいのです。なので先ずは錬成です〉
「酷くない!?」
〈ほら、さっさと錬成、錬成〉
「扱い雑くない!?」
「奈留お姉様?」
「あ、ごめんね。フィナちゃんの事、忘れてた訳じゃないんだよ?」
「うん」
すっごい私を見てくるフィナちゃん。
マジ可愛い。
マジ天使。
「な、なにかな?」
「あの……奈留お姉様はいつも誰とお話しているのですか?イマジナリーフレンドとかでしょうか?」
「フィナちゃん!?」
〈ほほう。フィナ嬢も中々に天然サディズムを拗らせておられるようですね〉
「うっさいわ!フィナちゃんは純粋無垢なだけだよ!」
〈物は言いようですね〉
「それより、フィナちゃん。イマジナリーフレンドっていったい…」
〈イマジナリーフレンドとは、「空想の友人」のことであり、心理学、精神医学における現象名の1つです。学術的にはイマジナリーコンパニオンという名称が用いられる事もあり、よくIFと略称される事もありますね〉
「聞いてねぇよ!お前は何処のwikiだよ!違うわ!はっ!∑(ºωº`*)……んん。こほん。ごめんね?…あ、あのね…フィナちゃん。少し聞きたいのだけれど、イマジナリーフレンドっていったいどこで覚えたの?」
「?」
〈なるほど、奈留はそこに引っ掛かりを覚えますか〉
「どういう事?あんた何か知ってるの?」
〈私は貴女のサポーターですのである程度は。それより良いのですか?本当に時間がありませんよ〉
「何のよ!」
《ガガッ…此方、第一中隊。報告。介入するも対象の被害甚大。繰り返す、介入するも対象の被害甚大》
「なっ!」
私は私の馬鹿さ加減に心が急速に冷えていくのを感じた。
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