第13話

 奈留の薬屋さん営業日誌


 ○月△日晴れ


 お店が開店してから一年がたった。


 そこそこに生活環境は向上したと思う。


 ショーツも5枚に増え、クマさんパンツと縞パンと紐パンも1枚づつゲット出来た。


 紐パンは正直どうでも良かったが、無いよりマシだろう。


 服も一張羅では無くなった。


 クローゼットにも服のバリエーションが5着ほど増えた。


 一年で5着は確立的に多いのか少ないのか微妙だけど。


 ただ、その中の一着が何故かパイロットスーツというか、逃げちゃダメだ!が口癖の某ロボアニメのピチピチスーツなのだ。


 一度着てみたが下着を中に着た状態だと下着が肌に食い込み、あんまりの痛みを経験した後に「やっぱりこれって全裸使用なんですね」と黄昏たのも良い思い出だ。


 しかし、某主人公君はこんなに締め付けられて、彼処は痛くなかったのだろうか?


 自宅に関しては、まさに快適の一言である。


 地下洞窟の中身が空っぽになったので別ここに留まる必要はなくなったのだが、いちいち移動を繰り返すのも手間なので、土地の持ち主に文句を言われるまで居座るつもりだ。


 因みに、洞窟が空なのは、サポーターが〈そろそろ頃合いですね〉なんて言って洞窟の中の全ての貴重資源をストレージインする事にしたからだ。


 理由は知らない。


 ただ、頃合いらしい。


 何がかは知らない。


 禁即事項らしい。


 最近、呈の良い逃げ文句じゃないかと疑いつつある。


 ただ、食に関しては若干微妙だ。


 いや、一応最近まで食べてはいたのだけれど。


 1日1リンゴ。


 何故リンゴかと言えば、ランダム錬成で何故かリンゴの木が出来てしまったのだ。


 せっかくなので、リンゴの木を店の横に植え、エリクシールを水に薄めたもので育ててみたのだが、エリクシール効果なのかリンゴは最高に瑞々しく美味しかった。


 リンゴ一つで体内の活力が漲り、スタイルも更に引き締まり、お風呂場の姿見で毎日、見とれる美しさを保っていた。


 別にリンゴ以外が嫌いと言う訳ではない。


 私はカツ丼が好きだ!


 牛丼が好きだ!


 親子丼だって大好きだ!


 もちろん、焼き貝だって好きだし、刺し身も大好きだ。


 山菜の天ぷらだって食べたい。


 出来れば口にしたかった。


 だが出来なかったのだ。


 何せ森で狩り&山菜採りに行こうと意気込んだら、あいつが〈森に出たら奈留は秒で死にますけど良いのですか?〉とか言ってきたのだ。


 聞けば、森の中は害意の嵐らしく、確かに広場の端に行くと危機管理モードでそれ以上近寄れなくなり、警告音がけたたましく鳴り響く。


 それまではエリクシールだけでも平気だったけれど食べれないとなると余計に何か食べたくなるのが人の常なのだろう。


 リンゴの木が錬成されたときは本当に嬉しかった。


 リンゴを食べた時、久しぶりの固形物を口にして顎と舌が喜んでいるようだった。


 先にも記述したが、リンゴは身体に良い影響を与えていた。


 しかし私はやらかしてしまったのだ。


 この家とストレージが共有されていることを忘れていた。


 何時ものように、冷蔵庫で冷やしたリンゴを食べようと扉を開くと、そこにはリンゴと一緒に彼の石、優れた賢人の石が鎮座していたのだ。


 虹色に輝く彼の石を見た瞬間に私は抑えられなくなってしまった。


 その石が美味しそうに思えて止まらなくなってしまったのだ。


 後からサポーターに聞いたところ〈エリクシール体がその根源を欲したのでしょう〉とのこと。


 それ以降、食べたいという欲求が薄れ、最近はまたエリクシールだけを飲んでいる。


 せっかく固形物を食せるようになったのに、これでは逆戻りだ。


 何故こんなことに……。


 いや、理由は分かっているのだけど、納得出来ないというか。


 リンゴは取れたらデータ化してストレージにいれている。


 たまに冷蔵庫にいるので、気が付いたらストレージにしまっている。


 だって食べたくなくても勿体ない。


 前にリンゴの木もストレージインすれば実をつけないだろうとデータ化してみたのだが、気づいたらいつの間にか植わさっていた。


 何度か試したけど、結局植わっているので、途中で諦めた。


 実はこの一年で私の能力が増えた。


 テリトリー化と同調と融合。


 この能力は恐らくだけど、私の薬屋さん由来の能力。


 数ヶ月、住んでいたらいつの間にか派生していた。


 因みに、家の周りの広場もこの家のテリトリーになっている。


 ついでに壁も。


 同調して気付い事だけど、あの外灯、敵対避け効果がある。


 害意を持っていると此方のテリトリーに入ってこれない。


 なので災厄の森と呼ばれるこの森で猛獣にあったことは一度もない。


 近況としてはこんな感じかな。


 ああ、そうそう。


 この一年間、お客は一人して来なかった。


 何のために急かされたのか是非、あいつに問い詰めたいものである。


 以上。


 成瀬川 奈留 記す

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