第12話

〈とりあえずカウンターの中入りませんか?〉


「分かってるわよ!」


 ぶつけた胸部装甲とお尻を擦りながらカウンターの中に入る。


「薬の種類は傷薬に消毒薬に胃薬に目薬に風邪薬?この世界に日本の風邪薬って効くの?」


〈どうなんでしょう。免疫力を高めるという意味では効果はあるのではないでしょうか〉


「そう。そう言えば、この薬のパッケージも使用上の注意書きも全部日本語よね。これってこっちで売っても問題無いのかしら?」


〈そうですね。売れたとしても補充する宛は今の所ないですね〉


「仕入れルートがないって事?」


〈ルートは存在しますが、今現在の時点では無理ですね〉


「日本から遠いって事?」


〈そうですね。この世界には日本という国はありませんから〉


「あー。やっぱりそうなんだ。

 まあ、ゆーても私も元々の世界なんて言い回し普通に使ってたし、深層意識では、ここは地球じゃないこと理解してたのかもね。

 そもそもこの子の容姿だって、どう見ても日本人じゃないし。

 そりゃそうか」


〈まあ、そうですね〉


「それで?」


〈それでとは?〉


「私日本人。でもこの子は日本人どころか地球人ですらないのよね?」


〈肯定〉


「と言うことは、やっぱりこの身体は私のではないんじゃない」


〈否定。その身体は貴女ですよ、お嬢様。いえ、奈留〉


「どういうことよ!」


〈禁即事項です〉


「またそれ?」


〈はい〉


「まあ、いいわ。どーせ、その内に真実とやらが嫌が奥にも知ることになるとか言われるパターンなんでしょ」


〈肯定〉


「え?マジでそうなの?」


〈肯定〉


「そ、そうなんだ。なら別に焦らなくてもいいか。それはそうと、日本でも、ましてや地球でもないのに、何故この店の商品は皆、日本語表記なのかが謎ね」


〈それは、奈留の薬屋さんだからですよ〉


「は?」


〈ですから、日本人の奈留のお店なのですから、表記は当然日本語です。表の看板も日本語でしたでしょう〉


「あー。そう言う事。……いや、だったらお店として機能しないじゃない!読めない文字じゃ」


〈まあ、この国の識字率はかなり低いですし、市井では文字が読めるのは、商人か良くて兵士くらいなものですね。

 ですが、確かに棚の商品は売らないに越したことはないですね。

 あくまで棚の薬は標本としておいて、薬は診察してから処方する薬を見極めて制作するの良いかと。

 その方がこの国の基準に遵守はしていますね〉


「ふーん。簡単なお医者も兼ねるってところか。OK、ならその方向で進めましょう」


〈では、次はプライベートスペースの拡充ですね〉


「とりあえずベッドはある。後ソファーかな?」


〈ならば、寝室にセットしましょう〉


「二階?」


〈居住スペースは基本二階ですね〉


「一階はお店の他は何があるの?」


〈応接室とお茶などを用意する為のキッチン。後はレストルームですかね〉


「完全なる事務所ね」


〈まあ、そうそう誰かを入れる事はないでしょうが〉


「人来ないもんね」


〈まあ、来ないうちに全てを整えたかったですし、僥倖でした〉


「階段はこっち?」


〈そちらは裏口、奈留が言うところの壁です。こちらのエレベーターで上がります〉


「二階建てなのにエレベーター付いてるの?」


 聞きながら上ボタンを押す。


〈代わりに階段はございませんが〉


「なんで?火災起きたら逃げられないじゃん」


〈火災などは起きませんから問題ありません〉


「何故言い切った!この人!」


〈おや、人扱いしてくださるのですか?光栄な事です〉


 ピンポンの音と共にエレベーターの扉が開く。


 エレベーターに乗り二階を押す。


「そう言えば、サポーターってAIか何かな訳?」


〈まあ。禁即事項です〉


「ガク!またそれ?」


〈ふふ。はい。またそれです〉


「はー。まあ、いいけど」


 ウィーン。ピンポン《二階です》


 エレベーターを降りると広めのリビングに出た。


 U字型の段差を長めのソファーで囲う作りでまん中にガラス製の長テーブルがある。


 U字型の先は緩い階段になっていて、バルコニーの出入り窓が直通になっている。


 天窓もあり日差しが気持ちよく差している。


 奥側の右側にダイニングキッチンが鎮座している。


 バーカウンターの様なテーブルが組み木されていてその前にはバーにでもありそうなパイプ椅子が二脚佇んでいる。


 手前右側の扉はレストルーム。その隣はバスルームだった。


 バスルームも解放感ある作りになっていて、露天風呂風なガラス張りのお風呂だ。入ったら絶対気持ちいいやつだった。


「あれ?バスローブだ。なんで?」


〈バスルームにバスローブがあるのがおかしいのですか?〉


 フェイスタオルとバスタオルもホテルの備え付けのように畳まれて棚に仕舞われている。


「いや、おかしくは無いけど」


 諦めて、左側に向かう。


 左側にも扉が二つあり一つはクローゼットだった。


「ここは何も無いのね」


〈まあ、そうですね。今着ていらっしゃるので〉


「ん?」


 よく見ると見覚えのあるスニーカーが隅に置いてある。


 それを、脇目に見ながら続いて隣の扉に向かう。


〈こちらが寝室ですね〉


「あれ?ベッドあるよ?」


〈寝室ですから当然では?〉


「いや、ソファーもあるし、なんで?」


〈ああ、そう言うことですか。この家はストレージと共有化しているのですよ。なので奈留、ベッドの下の引き出し開けて見てください〉


「引き出し?いいけど」


 ががっと開けるとブラがいた。


 薄いやつも一緒にいたが一枚だけ金色に輝くウルトラスリムになっていた。


「何これ?」


〈吸収性抜群な薄いやつですね〉


「いや、知ってる。そうではなく」


〈はあ、ですから吸収性が抜群だったのでしょ〉


「えーと、なんだろう。聞くとダメージ受ける予感がパないのだけれど、どういう事?」


〈どういう事かと聞かれましても、奈留の体液を大量に吸収してランクアップしたのでしょう〉


「いや、それもう使えない奴じゃん!」


〈いえいえ、むしろ他の薄い奴が必要無くなった感じもいたしますが〉


「なんで!使用済みだよ!これ!」


〈いえ、ですから永久浄化が付与されてます〉


「え、永久浄化?」


〈しかし、そうなると他をどうしましょうか。

 まあ、予備はあった方がいいでしょうし、それに……使えますね。

 奈留、後で今ある残り全部を使用済みにする事を推奨します〉


「なんでそんな恥ずかしい事を推奨されなきゃいけないのよ!」


〈今後の生活向上の為ですかね〉


「本当かしら」


 ジト目が止められない!


〈嘘を付いた記憶はありませんが〉


「でも話さない事は多々あったわ」


〈知らない方が円滑に事が進むこともございます〉


「それって私の為?」


〈肯定です〉


「そ。ならいいわ。了解よ」


〈全ては貴女様の生活の向上の為に〉


「頼りにしてるわ」


〈Yes My Road〉


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